姑は、とにかく人の話を聞かない人だった。
「やめてください」と言えば、わざとやる。
娘専用の歯ブラシを勝手に使い、私が注意すると、
「家族なんだからいいじゃない」
と笑う。
夫も隣で、
「母さんに悪気はない」
「お前が神経質すぎる」
そう言って終わらせた。
最初は我慢していた。
でも、娘が生まれてから私は本当に怖くなった。
娘には重度のナッツアレルギーがある。
病院でも、
「少量でも危険です」
と強く言われていた。
だから私は、家中の食べ物を全部確認し、姑にも何度も説明した。
「絶対にナッツは食べさせないでください」
すると姑は露骨に嫌な顔をした。
「最近の母親って大げさねぇ」
「昔の子はこんなので死ななかったわよ」
その時、私は初めて気づいた。
この人、“孫の命”より、自分が正しいことの方が大事なんだ。
それでも私は娘を守るため、できる限り対策した。
食器を分けた。
タオルも分けた。
歯ブラシも全部別。
なのに姑は、わざと娘の物を使う。
しかも、笑いながら。
ある日、私は姑の腕に赤い発疹が出ているのを見つけた。
最初は虫刺されかと思った。
でも、首元にもある。
胸元にも少し見えていた。
嫌な予感がした私は、すぐ娘を姑に近づけないようにした。
タオルを別にし、食器も消毒した。
夫にも言った。
「一回病院行ってもらった方がいいかも」
すると夫は不機嫌そうにため息をついた。
「またかよ」
「お前さ、母さんのこと嫌いすぎだろ」
私は言葉を失った。
違う。
私はただ、娘を守りたいだけだった。
でも夫の中では、
“嫁が母親をいじめている”
そういう話になっていた。
姑は横でわざとらしく笑った。
「ほらねぇ〜」
「この子、昔から私を汚いみたいに扱うのよ」
夫は完全に姑の味方だった。
だから私は、それ以上言うのをやめた。
どうせ止めても無駄。
そう思った。
数日後。
事件は起きた。
私が買い物へ行っている間に、姑が娘にナッツ入りのお菓子を食べさせたのだ。
帰宅した時、娘は顔を真っ赤にして咳き込んでいた。
呼吸も苦しそうだった。
私は血の気が引いた。
すぐ救急車を呼び、病院へ向かった。
病院で処置を受ける娘を見ながら、私は手が震えていた。
でも姑は、
「ちょっと食べただけなのに」
と不満そうだった。
夫まで、
「母さん責めるなよ」
と言い出した。
私はもう何も言えなかった。
その後、病院で娘の検査が行われた。
そして医師が、少し険しい顔でこう言った。
「念のため、ご家族も検査を受けてください」
空気が変わった。
夫が戸惑いながら聞き返す。
「え?」
医師は慎重に説明した。
「感染症の可能性を否定できません」
その瞬間。
私は、姑の腕の赤い発疹を思い出した。
姑の顔色が変わった。
でも次の瞬間、姑は私を指差して叫んだ。
「この嫁よ!!」
「変な男と遊んでるから変な病気持ち込んだのよ!!」
私は呆然とした。
夫も混乱した顔で私を見る。
その視線を見た瞬間、私は完全に冷めた。
ああ、この人。
私より母親を信じるんだ。
私は静かにスマホを取り出した。
そこには全部残してあった。
姑の発疹を見つけた日付。
「病院へ行った方がいい」と夫に送ったメッセージ。
娘を守るために消毒用品を買ったレシート。
全部。
私は静かに言った。
「私、最初に気づいてましたよね」
夫の顔色が変わる。
さらに私は続けた。
「だから娘を近づけないようにしてました」
「でもあなた、“母さんを悪く言うな”って言いましたよね」
夫は黙った。
姑だけが、
「そんなの関係ない!」
「嫁のせいだ!」
と叫び続けていた。
でももう、誰も姑を見ていなかった。
後日。
夫の体にも赤い発疹が出始めた。
最初は「ストレスかな」と笑っていた。
でも日に日に増えていく。
病院から帰宅した夫は、真っ青な顔をしていた。
私は何も聞かなかった。
聞く必要がなかった。
夫は初めて、小さな声で言った。
「……お前、最初から気づいてたのか」
私は娘を抱きしめながら答えた。
「私はずっと止めてたよ」
夫は黙り込んだ。
でも、もう遅かった。
人の忠告を笑って踏みにじる人間は、最後には自分で代償を払う。
私はその時、心の中で静かに決めていた。
――この家族は、もう終わりにしようって。
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