高校3年生の冬だった。
受験が近く、私は毎晩遅くまで机に向かっていた。
時計は深夜一時を回っていたと思う。
静まり返った家の中、
聞こえるのはシャーペンの音と、
時々鳴る暖房の小さな作動音だけ。
父はいなかった。
総合病院の医師だった父は、
その頃ほとんど家に帰ってこなかった。
理由は仕事——
母にはそう説明していた。
でも私は知っていた。
父には、
別の女がいた。
しかも相手は、
昔から付き合いのあった知人の妻。
父は家庭を壊し、
その女を奪った。
相手の男が、
どれほど壊れたかも知っていた。
家に怒鳴り込んできたこともある。
母はずっと耐えていた。
そしてその数日前、
母は手術を受けたばかりだった。
本来なら絶対安静。
まともに歩くことも辛い状態。
父はそんな時でさえ、
家にいなかった。
だから家には、
受験生の私と、
術後の母だけ。
——あの夜までは、
それでも何とか平穏だった。
突然だった。
寝室の方から、
耳を裂くような悲鳴が響いた。
「ギャアアア!!」
私は椅子を蹴飛ばすように立ち上がった。
母の寝室へ駆け込む。
すると母は、
窓の方を震えながら指差していた。
「……いた……外に人が……」
顔色は真っ白だった。
私は急いでカーテンを開けた。
でも外には誰もいない。
風だけが揺れていた。
「気のせいじゃ……」
そう言いかけた時だった。
廊下の奥で、
何かが軋む音がした。
ギィ……
空気が変わった。
私は息を飲んだ。
母も青ざめている。
その瞬間、
家の中に“誰かいる”と確信した。
私は震える手で、
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