亡くなった祖母の引き出しから、
ノートが出てきた。
レシピだけじゃなかった。
「煮物は砂糖より先にみりんを入れると柔らかくなる」
「お義母さんには最初に褒めると話が進む」
「子どもが泣き止まないときは窓を開けると気が散る」
全部書いてあった。
最後のページに、走り書きがあった。
「どうか幸せになってね。
おばあちゃんが失敗したこと、全部書いておいたから。
あなたは同じ思いをしなくていいよ。」
祖母とは、
あまり深い話をしたことがなかった。
口数が少なくて、
褒め言葉より手を動かすタイプで、
「大げさなことは苦手」と笑う人だった。
葬儀の日も、
泣いている私は何も言えなかったことを
ずっと後悔していた。
でもノートを読んで、気づいた。
祖母は何十年もかけて、
失敗した経験を、
次の誰かへの贈り物に変えて、
ずっと貯めてた。
声に出さなかっただけで、
ずっと伝えようとしていた。
無口な人だと思っていたが、
多くのことを伝えてくれていた。
ノートの途中に、
こんな一行があった。
「結婚して最初の冬、
お味噌汁の塩加減が合わなくて
毎日泣いていたよ。
でも1年後には褒めてもらえた。
だから大丈夫。」
祖母が泣いていたことを、
私は知らなかった。
強い人だと思っていた。
ずっとそうだったと思っていた。
違った。
弱くて、失敗して、泣いて、
それでも誰かのために貯め続けた人だった。
ノートを閉じた後、
しばらく動けなかった。
「おばあちゃん、ちゃんと読んだよ。」
声に出して言った。
誰もいない部屋で。
「自分の経験を、愛する人への贈り物に変える」
祖母がやっていたことは、
きっとそういうことだったと思う。
10年以上前の話、 ふと思い出しました。
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