正直、あの時点で普通に終わると思ってた。
満員電車でヨーグルト飲んで、
次におにぎり食べて、
最後にコーヒー。
それだけでも十分おかしいのに——
そのコーヒーが、全部こっちにかかった。
しかも、
「あっ」
それだけ。
謝りもしないで、そのまま降りようとした。
その瞬間、
「あ、これ無理だわ」
ってなった。
考えるより先に体が動いてた。
そのままホームで腕を掴んだ。
「ちょっと待ってください」
相手は一瞬だけ振り返ったけど、
すぐに腕を振りほどこうとした。
「急いでるんで」
……は?
そのまま行こうとする。
私は離さなかった。
「いや、今コーヒーかかりましたよね?」
できるだけ冷静に言ったつもりだった。
でも内心は普通にイラついてた。
相手は顔をしかめて、
「いや、当たってないと思いますけど」
って言った。
……は?
いやいやいや。
今さっき全部かかったよね?
私は自分のコートを指差した。
しっかり染みてる。
でも相手は、
「混んでたし、誰かじゃないですか?」
完全に逃げる気だった。
そのまままた歩き出そうとする。
私は一歩前に出て、進路を塞いだ。
「いや、今あなたでしたよね?」
相手の顔が一瞬変わる。
でもまだ引かない。
「証拠あります?」
……出た。
その一言で、逆にスイッチ入った。
ENFPの悪いとこ出たと思う。
「あ、そういう感じね」
ってなった。
私は少しだけ声のトーンを変えた。
「じゃあ駅員呼びますね」
その一言で、相手の動きが止まった。
でもまだ強がる。
「大げさじゃないですか?」
私はそのままスマホを取り出した。
「あと、防犯カメラも確認してもらいます」
一歩も引かなかった。
その場にいた周りの人たちも、
なんとなく空気を察して見ている。
逃げ場がなくなったのが分かったのか、
相手の表情が崩れた。
「……すみません」
小さい声だった。
でもまだ終わらせなかった。
「すみませんじゃなくて、どうするつもりですか?」
相手は完全に詰まった。
数秒の沈黙。
それから、
「クリーニング代…払います」
私は首を振った。
「これから商談なんで、今着替えないと無理なんですけど」
そこまで言った瞬間、
相手の顔が完全に変わった。
「あの……じゃあ新しいの、買います」
やっとそこまで来た。
私は少しだけため息をついた。
「じゃあ、今から行きましょう」
そのまま駅ビルに入った。
相手はずっと黙ってた。
さっきまでの強気が嘘みたいに消えてた。
服屋に入って、
私は同じようなシャツを選んだ。
値段を見て、相手の顔が少し引きつったのが分かった。
でも何も言わない。
レジで支払いを済ませて、
袋を渡してきた。
「……本当にすみませんでした」
今度はちゃんとした謝罪だった。
私はそれを受け取って、
少しだけ間を置いて言った。
「最初にそれ言ってくれればよかったんですよ」
それだけ言って、その場を離れた。
正直、疲れた。
でも——
あのまま何も言わずに終わってたら、
たぶんずっとモヤモヤしてたと思う。
あと一番思ったのは、
こういう人って、
最初から謝る気がないわけじゃなくて、
「逃げられるか試してる」
だけなんだなって。
逃げられると思ったら逃げる。
止められたら謝る。
だから今回は、
ちゃんと止めただけ。
それだけ。
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