「いちばん高いエコノミーって、いくらだと思う?」
たぶん普通は数万円。俺のは――70万円。
スイスの空港に着いた瞬間から、脳内は勝利確定BGMだった。
長距離フライト=フルフラットで寝落ち、起きたらヨーロッパ。香槟。静かな機内。人間としての尊厳。
金で解決できる疲労は、金で解決する。そういう日もある。いや、そういう日「が」あるはずだった。
チェックインはスムーズだった。
自動発券機が「カチャ…」って登場演出みたいに搭乗券を吐き出して、俺は航班番号だけ確認してサクッと歩き出した。
70万払った人間は、世界を疑わない。世界が俺を躺平させる側だと思ってる。
ここ、重要。
そして登机口。
ゲートのスキャナーに搭乗券を通す。
「ピッ」――
画面が真っ赤になった。
赤ってさ、ただの色じゃないよね。人の自尊心に直撃する色。公開処刑の色。
地勤さんが顔を上げて、めちゃくちゃ丁寧な声で言った。
「お客様、こちら…エコノミークラスでございますね。」
……は?
俺、聞き間違えたかと思って一回まばたきした。
「いや、ビジネス買ってます。70万払ってます。」
そう言いながら搭乗券を指差した。ビジネスの文字がある。はず。
でも彼女はもう一回スキャンして、赤が“より赤”になって戻ってきた。
「システム上はエコノミーです。」
システム上。
この言葉、万能すぎない? 免罪符すぎない?
「じゃあ俺の70万は何ですか? システムへのお布施?」
って言いそうになって、言った。すでに言ってた。
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