正直、こんなことになるとは思っていませんでした。
道で封筒を拾っただけです。
中に現金が入っていたので、そのまま交番に持っていきました。
ただ、それだけでした。
警察の方が中身を確認して、
「16万円ですね」
そう言いました。
私はそれを聞いて、ああ、それくらいかと思っただけです。
それで終わる話だと思っていました。
でも――
しばらくして、落とし主が来て、空気が変わりました。
「20万円入ってたはずなんですけど」
その一言で、場の雰囲気が一気に重くなりました。
私はすぐに言いました。
「いえ、これが全部です」
でも、その人は首を振りました。
「いや、絶対20万あった」
「間違いないです」
何度も同じことを繰り返す。
だんだんと、言い方も強くなっていきました。
私はそれ以上何も言いませんでした。
言っても、どうにもならない気がしたからです。
警察の方も、少し考えてから、静かにこう言いました。
「もし金額が違うのであれば、このお金はあなたのものではない可能性があります」
その瞬間でした。
相手がすぐに反応しました。
「いや、それはありえないです」
「この封筒、会社からもらったもので…」
少し焦ったように、言葉を続けました。
「給与って書いてありますし」
警察は落ち着いたまま、こう返しました。
「そうかもしれませんが、同じような封筒は他にもありますよね」
「金額が一致しない以上、断定はできません」
相手の言葉が、少しずつ弱くなっていきました。
さっきまでの勢いは、もうありませんでした。
しばらく黙ったあと、小さな声で言いました。
「……16万かもしれません」
さらに続けて、
「中に…203円くらいの小銭も入ってて…」
その時、初めて話が噛み合いました。
警察が確認すると、実際にその通りでした。
私は何も言いませんでした。
ただ、さっきまでの空気が嘘みたいに変わっていくのを見ていました。
あれだけ「20万あった」と言い切っていた人が、
今は自分で話を修正している。
その様子を見て、正直、少しだけホッとしました。
解放された、という感じに近かったと思います。
私はただ拾って、届けただけです。
それでも、ほんの少しの食い違いで、疑われる側になる。
今回、私は何も言わずに済みました。
でももし、あの一言がなかったら。
もし、そのまま押し切られていたら。
そう思うと、少し怖くなります。
善意で動いたはずなのに、
その善意が疑われることもある。
それを、身をもって知りました。
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