娘が学校で足を引っかけられて、机に耳をぶつけて帰ってきた。
ドアを開けた瞬間、泣きながら入ってきた姿を見て、ただ事じゃないと分かった。
耳は真っ赤に腫れていて、触ると痛いと顔をしかめる。
すぐに病院へ連れて行った。
診断は打撲。
しばらく様子見が必要と言われた。
命に関わる怪我じゃなかったのは良かった。
でも、だからといって軽く済ませていい話ではない。
「どうしたの?」
そう聞くと、娘は涙を拭きながら話してくれた。
「クラスの男の子が足出してきて……それで転んで、机にぶつかった」
その時点で、正直、頭の中が一瞬で冷えた。
わざとなのか、偶然なのか。
どちらにしても、学校として説明が必要なレベルだと思った。
そのまま帰宅してすぐ、学校に連絡した。
担任の先生が電話に出た。
状況を伝えると、少し間があってから、こう言われた。
「確認したところ、故意ではなく、偶然です」
……は?
思わず、言葉が止まった。
「偶然」という言葉が、あまりにも軽く感じた。
子どもは怪我して帰ってきてる。
病院にも行っている。
それなのに、“偶然”で終わらせる?
「どういう状況だったんですか?」
できるだけ冷静に聞いた。
すると先生は、
「足を出したタイミングで、たまたまお子さんが通りかかって……」
と説明した。
でも、その説明がどうしても腑に落ちない。
「それって、足を出したのは事実ですよね?」
一瞬、沈黙があった。
「はい……ですが、悪意はなく——」
またその言い方だった。
“悪意がない”
“偶然”
全部、責任をぼかす言葉に聞こえた。
そして何より、会話の流れが違和感だった。
どこか、“もう終わったこと”として処理しようとしている。
謝罪もない。
今後の対応の話もない。
ただ「そういうことでした」と説明して終わらせようとしている。
そこで、私は一度話を止めた。
そして、スマホの録音をオンにした。
もう一度、同じ内容を話してもらう。
「確認ですが、故意ではなく偶然、という認識で間違いないですか?」
先生は、少し戸惑いながらも答えた。
「はい、そのように報告を受けています」
その言葉を、しっかり聞いた上で、私は言った。
「では、この内容をそのまま上に報告しますね」
その瞬間だった。
空気が変わった。
電話越しでも分かるくらい、明らかに。
数秒の沈黙。
そして、声のトーンが一段下がる。
「いえ……あの、もう一度事実関係を確認させていただきます」
さっきまでの“終わらせたい感じ”が消えていた。
代わりに、慎重さが出てきた。
私はそのまま、「よろしくお願いします」とだけ言って電話を切った。
数時間後。
学校から改めて連絡が来た。
さっきとは別の、少し丁寧な口調だった。
「当事者への指導と、保護者への説明を行います」
やっと、まともな対応が出てきた。
最初から、それをやればよかったのに。
娘はその頃には落ち着いていて、塾にも行けるくらいには元気になっていた。
それでも、あの時の顔は忘れられない。
痛みよりも、怖さと悔しさが混ざった顔。
だからこそ、あのまま“偶然”で終わらせるわけにはいかなかった。
正直、怒りはあった。
でもそれ以上に思ったのは、
「ちゃんと向き合わないと、何も変わらない」ということだった。
強く出るとか、怒鳴るとかじゃなくて、
記録を取る。
言葉を残す。
そして、逃げ道を塞ぐ。
それだけで、態度は変わる。
今回、それをはっきり実感した。
これって、
最初の対応が普通だったのか、
それとも最初からおかしかったのか。
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