正直、その時点でもう限界だった。
掃除をやらせていたことも、
果物を勝手に食べたことも、
全部まとめてありえなかった。
でも一番無理だったのは——
あの一言だった。
「太ると結婚できなくなりますよ」
子どもに対して言う言葉じゃない。
私はその場で言った。
「もう結構です」
「今日で終わりにします」
はっきり、辞めてもらうつもりだった。
すると相手の顔色が変わった。
「そんな簡単に辞めさせるんですか?」
私は迷わず答えた。
「はい。これ以上は任せられません」
その瞬間——
あの人は笑いながら言った。
「だからシングルマザーはダメなんですよ」
空気が止まった。
「一人で子ども育ててると、
余裕もなくて、感情的になるんですね」
……は?
そこで完全に線が切れた。
私は一歩前に出て言った。
「今の発言、撤回してください」
でも相手は引かなかった。
「事実でしょ?」
その一言で、迷いは消えた。
私は静かに言った。
「契約は本日で終了です」
「それと——今の発言は記録してあります」
相手の表情が一瞬で変わった。
「……え?」
私は続けた。
「業務外の指示、無断での飲食、
そして差別的な発言」
「全部、正式に報告します」
完全に黙った。
さっきまでの態度はもうなかった。
その後、契約は正式に解除した。
必要な報告も、すべて済ませた。
それ以上、何かをするつもりはなかった。
ただ——
しばらくして、知人から聞いた。
あの人、次の雇い先がなかなか見つからないらしい。
理由までは聞かなかった。
でも、正直驚きもしなかった。
あの時の言動を見れば、
当然の結果だと思った。
娘は今も、好きなものを食べている。
笑っている。
それでいい。
子どもは、誰かの価値観で縛られるものじゃない。
そして——
越えてはいけない線を越えた人間は、
どこかで必ず止まる。
それだけの話だった。
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