帰宅した瞬間、私はまた靴が一足少ないことに気づいた。
ああ、今日もか。
もう驚きもしない。
今週で三度目の無断外泊だった。
玄関の空気は冷えていた。
夜なのに、家の中だけ妙に静かで、生活音が足りない。
子どもはとっくに寝ている。
私は保育園のお迎え、夕飯、風呂、寝かしつけまで全部終えて、ようやく一息つけるはずの時間だった。
でも、靴がないだけで、全部が台無しになる。
一歳八ヶ月の子どもがいる。
私は毎朝五時に起きる。
フルタイムで働いている。
保育園の準備をして、送って、仕事に行って、帰ってきて、また迎えに行って、夕飯を作って、洗濯して、寝かしつけて。
毎日それを回している。
なのに、あの人は平気で帰ってこない。
しかも、一度や二度じゃない。
今週で三度目だ。
怒りを通り越して、だんだん笑えてくる。
いや、正確には笑えてなんかいない。
疲れすぎて感情がずれてくるのだ。
リビングに入ると、例の付箋が目に入った。
黄色、黄色、黄色、ピンク。
まるで家計の引き継ぎメモみたいな顔をして、冷蔵庫のあたりに貼られている。
でも、書いてあることを読むたびに、胸の奥がじわじわ腐っていく。
「生活費」
「用途:家族全員の食費」
「支出の際はレシート(領収書)を該当する週の封筒に同封してください」
ここまではまだいい。
いや、よくはないけど、百歩譲って、家計管理のルールだと思えば読める。
でも、その次が本当に無理だった。
「個人、家族での外食代、アルコール類は含まれません」
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください