「それ、どうするの?」
レジ横で立ち止まった私に、夫がそう聞いた。
彼の視線の先には、会計を終えたばかりのレシートがある。
よく見ると、下の方に小さな文字でこう書いてあった。
――次回、対象商品1本無料。
あっ、と心の中で声が出た。
この「無料」という二文字を、私は見逃さない。
見逃せない。
主婦になってからというもの、これはもはや反射神経の問題だ。
「これ、次来た時に飲み物もらえるんだって」
少しテンション高めで言う私に、夫はレシートを一瞥してから、あっさり言った。
「俺、飲まないけど」
……あ?
「いや、俺は別に飲まないからさ。
また今度でいいんじゃない?」
その瞬間、私の中で何かが静かに、しかし確実に音を立てて崩れた。
飲まない。
うん、それはいい。
飲まないのは自由だ。
誰も強制していない。
でも。
飲まない = 要らない、ではない。
この二つを同一視されると、私はとても困る。
「いや、私は飲むし」
即座にそう返すと、夫は少し驚いた顔をした。
「え?でも、あんまりそういうの飲まなくない?」
確かに、私は普段あまり甘い飲み物を飲まない。
家では水かお茶がほとんどだ。
冷蔵庫にジュースが入っていることは、ほぼない。
だからといって。
無料の飲み物が目の前に現れた瞬間まで、
それを「飲むかどうか」で判断しなければならない理由は、どこにもない。
私はゆっくり息を吸ってから言った。
「私が飲むかどうかは、今決めることじゃない」
夫は完全に意味が分からない顔をしている。
「どういうこと?」
私は心の中で思った。
――ああ、これは説明が必要なやつだ。
「飲まないかもしれない。
でも、もらえるなら、もらう」
それが、私の答えだった。
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