20歳の誕生日の日。
父が突然こう言った。
「今日は飲みに行くぞ。」
それまで私は、父と二人で飲みに行ったことなんてなかった。
少し驚いたけれど、同時にどこか嬉しかった。
最初は普通の居酒屋だった。
父はビールを頼み、私は少し緊張しながらカクテルを頼んだ。
「20歳だもんな。」
そう言って、父は嬉しそうに笑った。
乾杯をして、いろいろな話をした。
学校のこと。
友達のこと。
これからのこと。
父とこんなふうにゆっくり話したのは、久しぶりだった気がする。
しばらくして、父が言った。
「もう一軒行くか。」
二軒目は、小さなバーだった。
店に入ると、マスターがすぐ父に声をかけた。
「久しぶりですね。」
父は私の肩を軽く叩きながら言った。
「うちの娘なんだよ。」
少し照れくさそうだったけれど、
どこか誇らしげだった。
それを見て、私は少しだけ胸が温かくなった。
またお酒を飲んで、いろいろな話をした。
父は昔の話もしてくれた。
若いころの失敗。
仕事での苦労。
そして、私が生まれたときの話。
「小さかったんだぞ。」
父はそう言って笑った。
気づけば、お酒もかなり進んでいた。
私は少し酔ってきていた。
そして父はまた言った。
「最後にもう一軒だけ。」
三軒目も、父のなじみの店だった。
そこでも父は、嬉しそうに言った。
「うちの娘なんだよ。」
店の人が笑って言った。
「もうそんな歳ですか。」
父は少し照れながら笑っていた。
私はその様子を見て、なんだか嬉しくなってしまった。
お酒も進んで、私はかなり酔っていた。
頭がふわふわしていた。
店を出たあと、父がタクシーを止めた。
二人で後部座席に座った。
車が動き出したあたりから、
私はもうほとんど記憶がない。
家に着いて、部屋に入った瞬間、
そのままベッドに倒れ込んで眠ってしまった。
次に目を覚ましたのは、朝だった。
頭が少し重かった。
リビングに行くと、テーブルの上に紙が置いてあった。
父の字だった。
そこには、こう書いてあった。
「昨夜、君が飲んだ酒。」
ビール ○杯
梅酒 ○杯
カクテル ○杯
そして、その下にこう続いていた。
「これが君の酒量の限界だ。」
「覚えておきなさい。」
さらに、その下にこう書かれていた。
「君はもう大人だ。」
「世の中には、いろんな人がいる。」
「でも、いつもお父さんが守れるわけじゃない。」
「だから、自分で自分を守りなさい。」
その紙を読みながら、私は少しだけぼーっとしていた。
昨夜、父が何度も私を見ながら
「ゆっくり飲めよ」と言っていた理由が、
そのときやっと分かった気がした。
父は、ただ一緒に飲みたかったわけじゃなかった。
私が大人になる日に、
一つだけ教えたかったのだ。
自分の限界を知ること。
そして、自分の身を守ること。
私はその紙を、今でも持っている。
たぶん、一生捨てないと思う。