高速道路を走っていた時だった。
休日ということもあり、道路はそこそこ混んでいた。
私は家族を乗せてのんびり走っていたのだが、バックミラーにやたらと近い車が映った。
白いピックアップトラックだった。
最初は気のせいかと思った。
だが違った。
車間距離はどんどん縮まる。
パッシング。
急加速。
蛇行。
どう見ても煽り運転だった。
「なんだこいつ……」
妻も後ろを見て顔をしかめた。
私はトラブルを避けようと速度を一定に保つ。
しかし相手は気に入らないらしい。
さらに距離を詰めてくる。
まるで「どけ」と言っているようだった。
数分後。
追い越し可能な区間に入った。
すると相手は待ってましたとばかりに急加速。
私の横へ並んだ。
そして窓が開いた。
運転席の男はニヤニヤしている。
次の瞬間。
堂々と中指を立ててきた。
助手席の男も大笑い。
まるで自分たちが勝ったかのような顔だった。
その瞬間だった。
私の中で何かが切れた。
実は私の車は古いディーゼル四駆だった。
最近のクリーンディーゼルではない。
アクセルを踏み込めば、それなりに黒煙を吐く。
私は少しだけアクセルを踏み込んだ。
すると――
ボフッ。
真っ黒な排気が後方へ流れる。
風向きは完璧だった。
黒煙はそのまま相手の車を包み込んだ。
さっきまで笑っていた助手席の男の姿が見えなくなる。
慌てて窓を閉める様子だけが見えた。
私は思わず吹き出した。
もちろん危険運転をしたわけではない。
ただアクセルを踏んだだけだ。
それなのに相手は大パニック。
中指どころではなくなっていた。
妻も呆れたように言った。
「いい気味だね。」
私は何も答えなかった。
ただ少しだけスッキリしていた。
ところが、本当に面白かったのはその後だった。
サービスエリアへ向かう途中。
遠くに黒い煙が見えた。
最初は工事か何かだと思った。
しかし近づくにつれ違和感を覚える。
煙は道路脇から上がっている。
さらに近づく。
私は思わず二度見した。
そこにいたのは――
さっきのピックアップトラックだった。
路肩に止まっている。
ボンネットから大量の黒煙。
運転手は携帯を片手に右往左往。
助手席の男も道路脇で頭を抱えている。
わずか十分前まで、
中指を立てていた男たちだった。
私は思わず笑ってしまった。
人生というのは本当に面白い。
あれだけ偉そうにしていた人間が、
十分後には助けを呼ぶ側になっている。
信号待ちで横に並んだ時もそうだ。
コンビニの駐車場でもそうだ。
なぜか人を見下したり、威張ったりする人ほど、あとで恥ずかしい目に遭うことが多い。
もちろん偶然だ。
私が何かしたわけではない。
車の故障と私には何の関係もない。
だが、あまりにもタイミングが完璧すぎた。
私は速度を落としながら横を通り過ぎた。
すると運転手と目が合った。
さっきの余裕そうな顔はどこにもない。
私は窓を開けた。
男は何か言おうとした。
助けを求めるつもりだったのかもしれない。
だが私はただ親指を立てた。
さっき彼が私に見せた中指とは正反対のジェスチャーだった。
そしてそのまま走り去った。
バックミラーには、黒煙の中で立ち尽くす二人の姿が小さく映っていた。
あの日思った。
車は故障しても修理できる。
だが、人間性が故障していると修理は難しい。
少なくとも私は、
あの黒煙よりも彼らの態度の方がよほど目に悪かった。
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