「高速で何度も車線を塞がれて、最後は無理やり止められた。」
男はそのまま降りてきて、窓を叩いて怒鳴り始める。
タバコまで投げつけてきて、正直——事故になってもおかしくなかった。
でも、その時。
私は、少しだけ笑った。
さっきの時点で、もう110番していたから。
数分後。
バックミラーに赤色灯が映った瞬間——
男は一気に顔色を変えて、慌てて車に戻った。
そのまま、警察は迷いなくその車に向かっていった。
「運転手さん、免許証をお願いします。」
その一言で、空気が変わった。
高速って、逃げやすそうに見えて——
出口を押さえられたら、終わりなんですよ。
さっきまで怒鳴っていた男が、
一瞬で黙る。
何か言おうとして、
でも言葉が出てこない。
警察はそのまま、
淡々と続けた。
「こちらの車でよろしいですか?」
男は小さく頷く。
さっきまでの勢いは、
もうどこにもなかった。
私は窓を少しだけ開けた。
「すみません、通報した者です」
警察は軽く会釈して、
状況を確認し始める。
その間も、男は何も言わない。
さっきまであれだけ騒いでいたのに。
数分前とは、
まるで別人だった。
……わかりやすいな。
そう思った。
やがて、男がこちらを見てきた。
少し気まずそうな顔で、
「……すみません」
小さくそう言った。
そしてポケットからタバコを取り出して、
差し出してくる。
「これで……その……」
ここで終わらせたい。
そういうことなんだろう。
私は一瞬だけ見て、
静かに言った。
「運転中なので、吸いません」
それだけだった。
男は言葉に詰まる。
警察がその様子を見て、
一歩前に出た。
私は続けて言った。
「さっきのやり取り、全部記録してます」
「必要なら、提供します」
警察は小さく頷いた。
その瞬間、
完全に流れが決まった。
男は視線を逸らした。
もう、何も言わない。
警察は淡々と手続きを進める。
「こちら、免許証確認させてください」
男は無言で差し出した。
そのまま車から降ろされ、
状況説明を受けて——
その場で処分。
さっきまでの強気な態度は、
完全に消えていた。
私はハンドルに手を置いたまま、
ゆっくり息を吐いた。
正直、怖かった。
でも——
感情で動かなくてよかったと思った。
高速では、
声が大きい人より、
ルールを知っている人の方が強い。
そして思った。
怒鳴るより、
通報した方が、早い。
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