10:46。
離婚した元夫から、突然LINEが届いた。
「お前、車の保険解約したのか?」
私はスマホを見て、少し固まった。
離婚して、まだ三ヶ月。
なのにその文章は、まるで何事もなかったみたいな口調だった。
続けてメッセージが届く。
「今事故って、保険入ってないって言われたんだけど。」
「いいから電話出ろ。」
その瞬間。
私は思わず笑ってしまった。
ああ。
まだ私が払ってると思ってたんだ。
でも、この人は昔からそうだった。
子どもが三歳のとき。
夜中に突然高熱を出した。
顔は真っ赤。
体は熱い。
ぐったりしている。
私は慌てて服を着せて抱き上げた。
「病院行くね」
そう言ったのに。
元夫はソファに寝転がったまま、ゲームのコントローラーを握っていた。
テレビの画面だけ見ながら、適当に返事をする。
「うん。」
それだけ。
私は真夜中の道を、熱を出した子どもを抱えて、一人で病院へ向かった。
保育園の送り迎えも私。
連絡帳を書くのも私。
ご飯も、お風呂も、寝かしつけも。
彼はほとんど何もしなかった。
車のことも同じ。
車検。
税金。
保険。
全部、私。
一度だけ言ったことがある。
「保険くらい、自分で管理してよ。」
その時、彼は笑って言った。
「そういうのはお前がやればいいだろ。」
その一言で、全部説明がつく気がした。
だから離婚した日、私は全部整理した。
銀行口座。
契約名義。
そして車の保険。
私名義だったから、解約するのは簡単だった。
それで終わり。
そのつもりだった。
なのに三ヶ月後。
突然のLINE。
「事故った。」
「駐車場でぶつけた。」
「相手の修理80万って言われてる。」
そして最後に。
「保険どうなってんだよ。」
私はしばらくスマホを見つめていた。
この人、本当に分かってないんだ。
離婚したことも。
自分が全部人任せだったことも。
私はゆっくり返信を打った。
「離婚したの覚えてる?」
送信。
すぐ既読がついた。
そして――
スマホが震えた。
着信。
出ない。
また鳴る。
切る。
また鳴る。
三回目を切った瞬間、LINEが届いた。
「お前、保険解約したのか?」
さらに。
「なんで解約するんだよ!」
そして最後に。
「お前の名義なんだから払えよ」
私はその文章をしばらく見つめた。
本当に、この人は何も変わらない。
子どもが熱を出しても。
家のことも。
手続きも。
全部、私任せ。
そして今も。
事故を起こしたのに、自分で何とかする気はなくて、真っ先に私のせい。
私は静かに打った。
「だから離婚したんだよ。」
送信。
チャット画面が静かになる。
数秒後。
また電話。
私は画面を見て、静かに指を動かした。
ブロック。
一瞬で全部静かになった。
部屋には、子どもの寝息だけが聞こえていた。
小さな背中が、布団の中でゆっくり上下している。
私はスマホを机に置いた。
あの夜。
熱を出した子どもを抱えて、一人で病院へ向かった道を思い出した。
あの時は、まだ結婚していた。
でも今は違う。
そして元夫からの連絡は――
それきり、二度と来なかった。
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