その日の新幹線は異常なくらい混んでいた。
東京行きののぞみ。
ホームの時点で人が溢れていて、
自由席の列は長蛇の列。
車内に入っても通路には立っている人がいて、
デッキにもスーツケースを抱えた人が並んでいた。
私は心の中で少し安心していた。
——指定席を取っておいてよかった。
今回の移動は長時間だったし、
確実に座りたかったから、数日前に予約していた。
そして自分の号車まで歩き、
座席番号を確認しながら通路を進んだ。
その時だった。
私は思わず立ち止まった。
自分の席に、
知らない親子が座っていた。
子どもは窓側でゲームをしていて、
母親はその隣でスマホを見ている。
あまりにも自然な光景で、
一瞬、自分が席を間違えたのかと思った。
私はもう一度チケットを確認した。
号車。
列。
席番号。
やっぱり間違っていない。
私はできるだけ穏やかに声をかけた。
「すみません、ここ私たちの席なんですが」
すると母親は、
ちらっとこちらを見ただけでため息をついた。
「子供がここがいいんです」
その言い方に、
一瞬言葉を失った。
まるでこちらが、
無理なお願いをしているみたいだったからだ。
私は落ち着いて言った。
「でも、指定席なので……」
その瞬間、
母親は被せるように言った。
「我慢できません?」
さらに、
周囲に聞こえるような声で続けた。
「そんなに冷たくしなくてもよくないですか?」
空気が変わった。
近くの乗客がこちらを見る。
事情を知らない人から見れば、
私が子ども連れを困らせているように見えたかもしれない。
でも私は、その瞬間に理解した。
——感情的になったら負けだ。
ここで言い返せば、
「怖い」「大人気ない」にすり替えられる。
だから私は何も言わなかった。
代わりに、
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