「来るな。」
久しぶりに会った息子の第一声が、
それだった。
私は東京駅の近くで、
思わず足を止めた。
スーツ姿の息子が、
会社の人たちらしき男性たちと歩いている。
私は嬉しくて、
思わず声をかけた。
「大ちゃん……!」
でも息子は、
私を見るなり顔色を変えた。
「ちょ、ちょっと……!」
慌てて近づいてきて、
小声で怒鳴る。
「今話しかけるな。」
私は固まった。
「え……?」
息子は周囲を気にしながら、
さらに低い声で言った。
「頼むから空気読んで。」
「会社の人いるから。」
私はしばらく意味が分からなかった。
でも次の言葉で、
全部理解した。
「恥ずかしいんだよ。」
胸がスッと冷えた。
息子は私が持っていた紙袋を見る。
中には、
地元の漬物と、
息子が昔好きだった煮物が入っていた。
「そういうのもやめて。」
「田舎くさいから。」
私は慌てて袋を後ろに隠した。
「ご、ごめんね。」
「でも久しぶりだから……。」
息子は周囲を気にしたまま、
イライラしていた。
「とにかく今は帰って。」
「あとで連絡するから。」
そう言うと、
私を置いて去っていった。
私はその場に立ち尽くした。
人がどんどん横を通り過ぎていく。
でも頭の中では、
さっきの言葉だけが響いていた。
――恥ずかしい。
私は、
この子を一人で育てた。
夫が早くに亡くなってから、
工場でも清掃でも何でもやった。
冬は手が切れて血が出ても働いた。
この子だけは大学へ行かせたかったから。
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