イベント開始まであと30分。
私は入口付近で目を疑った。通路の真ん中に、銀色の本田がどっしりと停まっている。
これでは搬入車両は一切入れない。焦るスタッフたちの視線が私に集まる。
私はすぐに車主に電話をかけた。
「すみません、ここ、通行できないんですけど」
相手の声は冷たかった。「出張中だから、無理だよ」
思わず血が逆流する。出張中?そんな理由で通行妨害が許されると思っているのか。
時間はどんどん過ぎていく。搬入車は入口で立ち往生。スタッフの表情が固まる。
私は深呼吸し、冷静に判断した。「よし、レッカーだ」
無線で指示を出す。赤い臂(アーム)がゆっくりと伸び、車輪を掴み始める。
車が少しずつ浮き上がる。
運転手が慌てて走ってきた。「ちょっと待て!俺の車だ!」
だがもう遅い。車は既に半分以上持ち上がっている。
私は静かに問いかける。「お客様の車ですか?」
「そうだ!」怒鳴り声が響く。
「勝手にレッカーなんてありえない!」
私はスマホを見せる。「通話履歴も記録されています。出張中とおっしゃっていましたが」
彼の顔が固まった。言葉が出ない。
私は淡々と書類を提示する。違法駐車、通行妨害、レッカー費用、保管料、違約金。
「……全部ですか?」
「規約通りです」
その瞬間、周囲の空気が一変した。
赤いアームはさらに車を持ち上げ、荷台に固定される。もう戻せない。
車主は観念したようにペンを取り、書類にサインする。
搬入車両がやっと通路に入る。
通路はすっかり空いた。
スタッフの一人が小さくつぶやく。「最初から動かしてればよかったのに」
誰も反論しない。ルールは最初から決まっていたのだ。
私は深く息をつく。
ルールを無視した結果は、この赤いランプが証明している。
違法駐車の代償は、誰も逃れられない。
そして、イベントは予定通り開始された。
搬入作業も順調に進む。緊張と苛立ちの渦の中、正義が勝った瞬間だった。
あの車主の悔しそうな顔を思い出すたび、私は心の中で小さく笑う。
ルールを守ることの大切さと、守らせる力の強さを、改めて実感した一日だった