朝、太陽はまだ低く、柔らかい光が駐車場に差し込んでいた。
買い物かごを膝に抱え、スーパーで手に入れた野菜や日用品をぎゅっと抱えながら、私は駐車場の車椅子スペースに向かっていた。
普段なら、慎重にゆっくりと進むのだが、今日は朝から少し慌ただしかった。
車椅子に乗る私にとって、数センチの段差も危険の種だ。
駐車場の車椅子専用スペースの横には、安全歩道が設けられている。
段差を少しでも緩和しようとした痕跡が見える。
でも、ほんの数センチでも、車椅子は容易に転倒する。
その時だった。
膝の上に抱えていたかごの重みも手伝い、
車椅子の前輪が小さな段差に引っかかり、私は派手に前方に倒れた。
「うわっ!」
買い物かごがひっくり返り、中身が地面に散らばる。
私は体ごと地面に打ち付けられ、
上から車椅子のフレームが覆いかぶさる。
痛みはさほどではなかった。
だが、膝に冷たい衝撃が走る。
思わず手で膝を押さえ、息を整える。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
買い物かごの中身は散乱し、
袋は破れ、野菜やパンが地面に転がっている。
「まずい…」
一歩一歩慎重に車椅子を起こす。
足元に転がった買い物を確認しながら、
散乱した荷物を拾い上げる。
自宅に帰ると、ズボンを脱ぎ膝を確認した。
赤く腫れ、擦りむけた跡が生々しい。
やはり派手に転倒したのだと実感する。
ふと、駐車場を設計した人々の顔を思い浮かべる。
安全歩道や段差軽減の努力は理解できる。
だが、車椅子にとっては「ほんの数センチ」が命取りになる。
もしも手直しをするなら、完全にフラットにするか、
完全なスロープにしてほしい。
それだけで、同じ事故は防げる。
この事件は、単なる転倒事故ではない。
数センチの差が、生活の安全を左右する現実だ。
小さな段差でも、車椅子では大事故につながる。
思い返せば、日常の中で危険は身近にある。
普段は意識しない段差、溝、段差の端。
それらすべてが、車椅子利用者にとっては潜在的な脅威なのだ。
今回の転倒は、私にとって大きな警鐘となった。
日常生活の中で、安全の意識を再確認する契機になった。
事故の後、散乱した買い物を整理しながら、
私は心の中で誓った。
「誰かが設計や管理に関わるなら、
車椅子にとって『ほんの数センチ』が危険だということを
ぜひ理解してほしい」
赤く腫れた膝を見つめ、
痛みはやや残るが、それ以上に伝えたい思いがあった。
車椅子の安全は、わずかな配慮で大きく変わる。
ほんの数センチの差が、生活の安心を左右する。
この経験を、同じ立場の誰かのために、
そして設計に携わる人々に、知ってもらいたい。
たった一度の転倒で、日常は一瞬で変わる。
でも、少しの改善で、誰もが安心して歩ける世界に近づける。
私は赤く腫れた膝をさすりながら、
もう一度、日常の安全の重要さを胸に刻んだ。