駅前のマックで、人生でいちばん「空気が凍った瞬間」を経験した。
トレーを持って振り向いたそのとき。
――ベチャッ。
冷たいものが顔に張りついて、視界が一気に白く霞んだ。ミルクシェイク。しかも思い切り。頬から顎、首元まで一気に流れて、制服の襟がぬるぬるに濡れる。甘ったるい匂いが鼻に刺さって、息が詰まった。
店内が、静まり返った。
レジ横の子どもが口をぽかんと開けて、奥の席のおじさんが新聞を持つ手を止めた。揚げたてポテトの音だけがやたら大きく聞こえる。
犯人は、目の前の高校生カップル。
男のほうは腕を組んで、勝ち誇った顔。女のほうはスマホを縦に構えて、私の顔をしっかりフレームに入れている。泣いてもいないのに、泣いてる風の声で言った。
「ねえ、これ見て。店員がミスって逆ギレしてる~」
……逆ギレ?
こっちは、まだ何も言ってない。顔にシェイクが張りついて、まばたきするたびに睫毛が重いだけだ。
私は高校を出たばかりの新人で、マックのバイトもまだ数ヶ月。正直、こういう“事件”が起きるなんて思ってなかった。クレーム対応の研修は受けたけど、顔面シェイクは想定外すぎる。
でも、最初に頭に浮かんだのは「反射で言い返したら負ける」だった。
日本の店って、ちょっとでも声を荒げたほうが“悪者”になりやすい。まして相手は制服。周りの空気は一瞬で「店員が何かした?」に傾く。
男が一歩近づいてきた。
「おい、早く作り直せよ。待ってんだけど。俺ら学生なんだよ?時間ないんだけど?」
その瞬間、私はさっきの流れを思い出した。
夕方の混雑。駅前だから行列が伸びて、番号札が呼ばれるたびに「まだ?」って視線が飛んでくる。そこへ、このカップルが割り込むように前へ出てきた。
「すみません、お並びいただいて…」
そう言ったら、女が笑ってこう返した。
「え~学生は優先でしょ?部活あるんだけど?」
優先なんてルール、ない。
だけど彼らは“当然”みたいな顔で、出てきたばかりの別のお客さんのトレーに手を伸ばしそうになって、私は慌てて止めた。
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引用元:https://x.com/sprinterhtky/status/1906723962094256492,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]