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「こちら、座ってください」市電で参考書を読んでいた高校生たちが、高齢者が乗るたび次々と立ち上がった…立ったまま勉強を続ける背中に、思わず泣きそうになった話
2026/05/19

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《彼らは試験前なのに、誰よりも静かに席を譲った》

市電に乗った瞬間、私は少し驚いた。

座席には高校生たちが並んで座り、それぞれ参考書を開いていた。
英単語、数学の問題集、赤ペンでびっしり書き込まれたノート。

車内は混んでいるのに、不思議なくらい静かだった。
聞こえるのは、電車が揺れる音と、紙をめくる小さな音だけ。

「試験前なのかな」

私はそう思いながら、つり革につかまった。

正直、最初は少しだけ思った。
今の子たちは本当に忙しいんだな、と。
電車の中でもスマホではなく参考書。
座っている間すら、勉強時間に変えている。

大変そうだな、と思った。

けれど次の停留所で、車内の空気が少し変わった。

杖をついた高齢の男性が乗ってきた。

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ゆっくりと足を運び、空いている席を探すように車内を見渡した。

でも、座席はほとんど埋まっていた。

その瞬間、何人かの大人はすっと視線を落とした。
スマホを見るふりをする人。
窓の外を見る人。
寝たふりのように目を閉じる人。

「ああ、またこの空気か」

そう思った時だった。

参考書を読んでいた一人の高校生が、迷うことなく本を閉じた。

「どうぞ」

たった一言。
声は大きくなかった。
でも、はっきりしていた。

老人は一瞬驚いた顔をして、それから何度も頭を下げた。

「ありがとうね」

高校生は少し照れたように笑って、席を譲った。
そして自分はドアのそばに立ち、片手で手すりを持ち、もう片方の手でまた参考書を開いた。

私はその姿から目が離せなかった。

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揺れる電車の中で、立ったまま勉強するのは楽ではない。
ページはめくりにくいし、文字だって追いづらい。
それでも彼は、不満そうな顔ひとつしなかった。

そして、驚いたのはそれだけではなかった。

次の停留所で、また別の高齢者が乗ってきた。

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