店のドアを押した瞬間、揚げ油と甘いソースの匂いがむわっと顔に当たった。
夜だった。
雨上がりだった。
アスファルトは黒く光っていて、ネオンの色をぐちゃぐちゃに映していた。
私は仕事帰りで、肩は重いし、腹も減っていた。
何でもいいから早く受け取って、帰って、靴を脱いで、黙って食べたかった。
ただ、それだけだった。
店内はそこまで混んでいなかった。
カウンターの向こうでは店員が紙袋を並べ、レジ横では学生みたいな二人組がスマホを見ながら笑っていた。
フライヤーの音。
レシートを切る音。
氷の当たる音。
よくある夜の、よくあるテイクアウト店の空気だった。
私は名前を告げた。
店員は一度うなずいた。
でも、そのうなずきが妙に軽かった。
聞いてるのか聞いてないのか、よくわからない顔。
口元だけ少し上がっていた。
笑顔、というより、何かを飲み込んだ顔だった。
その時点で、ほんの少しだけ嫌な予感はした。
でも、こういう予感って大体、当たってほしくないから、自分で打ち消す。
考えすぎ。
疲れてるだけ。
たまたま機嫌が悪い店員。
それで終わる話。
終わってくれ、という祈り込みで。
数分して、紙袋がカウンターに置かれた。
「はい、これ」
そんな感じで、雑に押し出された。
私は受け取って、何気なくレシートを見た。
そこで、手が止まった。
一秒。
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