あの日、私はたしかに「税金を取られた」と思った。
しかも、堂々と。
場所はデパートの中。
人の流れも多くて、どこか落ち着かない空気だった。
私はショーケースの前で、しばらく迷ったあと、
革の小物ケースを一つ選んだ。
値段は3万円。
安くはない。
でも、ずっと探していたタイプだった。
「これでいいか」
そう思ってレジに持っていった。
店員は丁寧に対応してくれて、
手続きもスムーズだった。
特に問題はなかった。
むしろ、気分はよかった。
いい買い物をしたな、という満足感すらあった。
レシートを受け取って、店を出る。
その時までは、何も気づいていなかった。
エスカレーターに乗って、
なんとなくレシートを開いた。
これも、ただの癖だった。
上から順に目で追っていく。
商品名。
3万円。
ここまではいい。
次の瞬間、違和感が走った。
「消費税 1,500円」
……え?
一瞬、理解が止まった。
いや、待って。
これ、免税じゃなかった?
レシートをもう一度よく見る。
確かに、赤字で「消費税免税」と書かれている。
なのに、そのすぐ上には
しっかり「消費税 1,500円」。
意味がわからない。
免税なのに、税金がある?
頭の中で整理しようとする。
でも、どう考えてもおかしい。
「これ、普通に二重取りじゃない?」
思わずそう思った。
3万円に対して1,500円。
ちょうど5%。
計算も合っている。
だからこそ余計に不自然だった。
もし免税なら、0円のはず。
なのに、なぜかしっかり計上されている。
その瞬間、さっきまでの満足感が一気に消えた。
代わりに、じわっとした不信感が広がる。
もしかして、気づかない人から普通に取ってる?
いや、そんなわけないか。
でも、この表示はどう考えてもおかしい。
私は立ち止まって、もう一度レシートを見た。
何度見ても同じ。
「消費税免税」と「消費税1,500円」が共存している。
意味が通らない。
一瞬、このまま帰ることも考えた。
でも無理だった。
この違和感を抱えたまま帰るほうが気持ち悪い。
私はそのまま店に戻った。
レジにはさっきの店員がいた。
変わらない笑顔で、次のお客さんを対応している。
その“普通さ”が、逆に引っかかった。
私はレシートを握りしめて、声をかけた。
「すみません、このレシートなんですけど…」
自分でも少し固い声だったと思う。
私は「消費税」の部分を指さした。
店員はレシートを見て、
一瞬だけ間を置いたあと、すぐにうなずいた。
「ああ、こちらですね」
その反応に、逆に戸惑った。
え、普通にわかるの?
「こちらは、もともとの税込価格に含まれている税額表示になります」
さらっと言われた。
私は一瞬、止まった。
……つまり?
「免税の場合でも、元の価格に含まれている税額は表示されるんです」
説明は丁寧だった。
そして、たぶん正しい。
私はゆっくり理解していった。
つまりこれは、
“取られている税金”ではなくて、
“もともと価格に含まれていた税額の内訳表示”。
だから、実際に追加で払っているわけではない。
頭では理解した。
したけど。
その瞬間、別の違和感が浮かび上がった。
じゃあ、この表示、誤解されない?
だって普通に見たら、
「免税なのに税金取られてる」
って思うよね?
実際、私はそう思った。
店員は落ち着いたまま、
「わかりにくくて申し訳ありません」
と軽く頭を下げた。
その一言で、少しだけ力が抜けた。
怒るほどではない。
でも、完全に納得したわけでもない。
私はもう一度レシートを見た。
3万円の買い物。
そこに1,500円の“見えない税金”。
いや、正確には見えてるけど、
見え方がおかしい。
帰り道、なんとも言えない気持ちになった。
損はしていない。
でも、気持ちよくもない。
ただ一つ思ったのは——
この表示、普通に誤解させにくるだろ。
そして私はたぶんこれから、
「免税」と書いてあっても、
その下に何が書いてあるかまで全部確認する人になる。
たかがレシート。
でも、その一行で人の気分は簡単に変わるんだなと思った。
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