夕方の空気は、妙にぬるかった。
知らない土地の夕暮れって、それだけで少し心細い。
窓の外は薄暗くなりかけていて、道ばたの木も、店の看板も、どこか輪郭がぼやけて見えた。
私はタクシーの後部座席に座って、スマホの地図と、フロントガラスの向こうの道を交互に見ていた。
最初は、ただの誤差だと思った。
海外だし。
道を一本くらい間違えることなんて、まあある。
運転手だって人間だ。完璧なカーナビにはなれない。
でも。
一本じゃなかった。
二本でもなかった。
ぐんぐん。
本当に、ぐんぐん。
私が行きたい方向とは別のほうへ、車は気持ちいいくらい勢いよく進んでいった。
私は画面を見た。
ルートは目的地からじわじわ離れていく。
じわじわ、じゃない。
むしろ堂々と。
「そっちじゃないです」と地図そのものが青い線で叫んでいる。
車内の空気が少しだけ変わった。
さっきまで流れていたラジオの音も、やけに遠く感じる。
エアコンの風は冷たいのに、背中だけ変な汗がにじんだ。
私は前の座席越しに、運転手の横顔を見た。
無表情。
いや、無表情というより、見ないふりの顔。
こっちの視線に気づいているくせに、気づいていないことにしている顔だった。
え、不穏。
普通に不穏。
私は軽く咳払いして、できるだけ穏やかな声で言った。
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