履いて3日、地面に白い破片が散らばった。
最初は砂かと思った。けれど、足を止めて見下ろした瞬間、背筋が冷えた。崩れていたのは地面じゃない。私の靴底だった。
8,900円で買ったナイキ。
TEMUで見つけたとき、レビューは高評価ばかりだった。「本物と変わらない」「お得すぎる」——信じた。箱もそれらしかった。タグも付いていた。だから疑いもしなかった。
でも三日目で、粉になった。
帰宅して靴を裏返すと、指で押しただけでポロポロ崩れる。ゴムの弾力はなく、乾いたチョークのように砕ける。これが“使用不当”?
すぐに問い合わせた。
「使用不当の可能性がございます。」
は?
「お客様の保管環境に問題があった可能性もございます。」
三日だよ?玄関に置いてただけだけど。
さらに追い打ち。
「正規品ではない可能性もございます。」
一瞬、意味がわからなかった。
「返金対象外商品です。」
画面を見つめたまま、私は深く息を吸った。怒鳴るのは簡単。
でもそれじゃ終わる。
私は書いた。
「正規品ではない可能性があるなら、御社は何を販売されたのですか?」
既読。
数分沈黙。
テンプレートのような謝罪文。
つまり、こういうことだ。
本物かどうかは知らない。でも返品はできない。
笑える。
私は靴の写真を撮り、型番を拡大し、箱のロゴを比べた。そしてナイキ公式にメールを送った。画像、購入履歴、ショップ名、すべて添付。
翌日、返信が来た。
「当該商品は弊社製品ではありません。」
一文だった。短く、はっきりと。
偽物。
胸の奥が熱くなった。怒りというより、冷たい確信だった。やっぱり。
私はそのメールを保存し、TEMUのサポートに再送した。
「ナイキ公式より偽物と確認されました。商標侵害の疑いがあります。」
今度は返事が遅かった。
「確認いたします。
」
その間に、私は消費生活センターに相談した。経緯、対話履歴、公式メール。すべて整理して提出。さらに商標侵害窓口にも通報。
三日後、変化が起きた。
商品ページが消えた。
昨日まであったレビューも、写真も、すべて404。ショップを検索すると「現在利用できません」。
メッセージが届いた。
「全額返金させていただきます。」
クーポン付与の案内も添えられていた。
でもそれだけじゃなかった。数日後、プラットフォームから「偽ブランド対策強化のお知らせ」という告知が出た。
監視体制を見直し、出品審査を厳格化する、と。
私は画面を閉じた。
最初に「使用不当」と言われたとき、ほんの少しだけ、自分を疑った。もしかして私が悪い?保管が悪かった?踏み方が悪かった?
でも違った。
悪かったのは、粉になる商品を売り、責任を客に押し付ける構造だった。
数日後、さらに驚くことがあった。同じショップで買ったという人からメッセージが届いたのだ。「同じように崩れました」と。私が投稿した経緯を見て、通報したという。
一件じゃなかった。
私は怒鳴らなかった。感情的な投稿もしなかった。事実を並べ、公式の回答を添え、通報しただけだ。
それでも、結果は動いた。
8,900円は戻った。
ショップは凍結された。
プラットフォームは対策強化を宣言した。
最初に言われた言葉が頭をよぎる。
「使用不当です。」
違う。
不当だったのは、売り方だ。
崩れた靴底をゴミ袋に入れながら、私は思った。
粉になったのは靴底だけじゃない。
偽物を売った代償は、もっと重かった。
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