あの日の夕方、突然大きな衝撃音がした。
ドンッ——!
家全体が揺れた気がして、私は慌てて外に飛び出した。
すると目に入った光景に、思わず言葉を失った。
車が、うちの庭に突っ込んでいた。
しかも、そのまま壁にぶつかって止まっている。
「……は?」
しばらく状況が理解できなかった。
近所の人も何人か出てきて、ざわざわしている。
運転席から出てきたのは、高齢の男性だった。
「す、すみません…」
顔色が真っ青だった。
警察が来て、事故処理が始まった。
幸いけが人はいなかったが、家の壁と庭は完全に壊れていた。
警察は言った。
「相手の保険会社が対応することになります」
私はその言葉を聞いて、少し安心した。
「まあ、保険会社があるなら大丈夫だろう」
——その時は、そう思っていた。
だが。
本当の地獄は、そこからだった。
事故から一週間。
保険会社から、何も連絡が来ない。
「……あれ?」
普通、こういう場合って
すぐ担当者から連絡が来るものじゃないのか?
二週間。
まだ来ない。
三週間。
さすがにおかしいと思い、こちらから電話をした。
やっと繋がった担当者は、こう言った。
「確認しますので、少しお待ちください」
それからまた、連絡が途絶えた。
気づけば——
事故から2ヶ月。
家の壁は壊れたまま。
庭には事故の跡が残ったまま。
なのに、保険会社からは何も進展がない。
またこちらから電話をした。
すると担当者は、まるで何事もないように言った。
「現在、査定を進めています」
「……もう2ヶ月ですよ?」
そう言うと、
「もう少しお時間をいただければ」
その一点張りだった。
さらに時間が過ぎた。
事故から4ヶ月。
正直、もう呆れていた。
こちらが催促しない限り、
向こうからは一切連絡が来ない。
そしてある日、やっと電話が来た。
「修理の件ですが」
ようやく話が進むのかと思った。
だが、その次の一言で
私は完全に固まった。
「修理費は一度、立て替えていただけますか?」
「……は?」
思わず聞き返した。
「いや、立て替えって?」
担当者は普通の口調で言った。
「数百万ほどになると思いますが、
一旦お支払いいただいて——」
そこで私は、言葉を遮った。
「ちょっと待ってください」
できるだけ、落ち着いた声で言った。
「家に車を突っ込まれたのは、こちらですよね?」
「はい」
「その被害者が、数百万を立て替えるんですか?」
電話の向こうで、少し沈黙があった。
私は続けた。
「事故から4ヶ月、
こちらから何度も連絡して、
やっと進んだ話がそれですか?」
担当者は小さく咳払いをした。
「通常の手続きで——」
その瞬間、私は言った。
「それ、普通じゃないですよね」
怒鳴ってはいない。
でも、はっきり言った。
「被害者に数百万を立て替えさせるのが、
御社の“通常”なんですか?」
また沈黙。
数秒後、担当者の声が少し変わった。
「……確認いたします」
その後の展開は、早かった。
それまで4ヶ月も動かなかった話が、
数日で一気に進んだ。
査定も進み、
修理の手続きも始まった。
私はその時、はっきり思った。
保険会社は——
被害者が黙っていると、本当に何も進めない。
事故そのものも最悪だった。
でも正直、それ以上にきつかったのは
その後の対応だった。
何もしていない被害者が
・時間を奪われ
・ストレスを抱え
・お金まで立て替えろと言われる
それが「普通」だと言われた時、
さすがに我慢の限界だった。
あの時、怒鳴らなくてよかったと思う。
でも一つだけ確実に言える。
被害者が黙っていると、
本当に舐められる。