雨の夜だった。
タクシーの後部座席で、娘が「今日ね」と笑いながら話し始めた、その瞬間——
「砰(バン)ッ」
後ろの窓が、雪みたいに弾けた。ガラスの粉が車内に舞って、娘の声が消えた。
次に聞こえたのは、娘の短い悲鳴と、運転手さんの「動くな!」の声。
急停車。シートに押しつけられる身体。私の指先は震えて、娘の肩を探す。
娘は顔をしかめて、右腕を押さえていた。
救急車。病院。レントゲン。
医師の口から出た言葉は、簡単で残酷だった。
「骨折です」
相手?
監視カメラに映ってたのは、ナンバープレートのない“黒い影”だけ。
無保険?無登録?逃げた?
その夜から、ネットは大騒ぎ。
「開けたドアに当たったんじゃ?」
「タクシーって危ない」
「シートベルトしてたの?」
——知らない人の“推理”が、娘の痛みを勝手に料理していく。
でもね。
私は、感情より先に手を動かした。
事故の翌朝。タクシー会社に連絡して、車内カメラとドラレコの保存をお願いした。警察にも届け出。診断書、領収書、通院予定、全部まとめる。
そして、ここが一番大事。
「治療費はどうなるの?」って聞いた私に、タクシー会社の担当の方が言った。
「まず、こちらの保険で対応します。お嬢さまの治療を優先してください」
……正直、そこで一回泣いた。
“先に払われる”って、こんなに救われるんだ。
数日後。娘のスマホから、例の夜の音声が出てきた。
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