「30分前に撮った証拠です。」
モニターに映るその画面を見ながら、私は思わず小さく息を吐いた。
——まただ。
帰宅して、いつものようにインターホンの録画を確認しただけだった。
特に何か期待していたわけじゃない。
ただの“確認”のつもりだった。
でも、そこに映っていたのは——
見慣れた白い車。
そして、そのまま何の迷いもなく、
うちの敷地内に入ってくる姿だった。
一度や二度じゃない。
最初は「たまたまかな」と思っていた。
少しだけ停めるだけなら…と、見て見ぬふりもした。
正直、トラブルになるのが面倒だったから。
でも——違った。
これは“たまたま”じゃない。
動画を遡って確認してみると、
同じ車が、同じように入ってきて、同じように出ていく。
しかも毎回、迷いがない。
まるで“自分のスペース”みたいに。
その瞬間、私ははっきり理解した。
「ああ、この人——完全に習慣になってるな」
そこからは、やることは一つだった。
感情で怒るんじゃなくて、
“証拠を揃える”。
私はすぐに録画データを整理し始めた。
日付、時間、侵入の瞬間、滞在時間。
車の特徴、動きのパターン。
全部、ひとつひとつ切り出して保存した。
ただの「気のせい」じゃ済ませないために。
そして、記録を重ねていくうちに、
さらに嫌な事実に気づく。
回数が、思っていたよりも多い。
一週間に一回どころじゃない。
ほぼ“日常的”。
その時点で、私の中で線は引かれた。
——これはもう、注意レベルじゃない。
対応するべき案件だ。
私は一度も直接注意していない。
それは、あえてだ。
証拠もないまま感情で動けば、
「そんなつもりじゃなかった」で終わる可能性がある。
でも今は違う。
全部、揃っている。
言い逃れできない形で。
私はデータをまとめ、
時系列で一覧にした。
「何月何日、何時、何分、侵入確認」
ただそれだけの羅列なのに、
見れば見るほど、異様だった。
ここまで繰り返しておいて、
“知らなかった”は通用しない。
そして最後に、
決定的な一枚を選んだ。
——今日の、30分前の映像。
最新の証拠。
私はそれを保存しながら、静かに思った。
「これで終わりにする」
これ以上、我慢する理由はない。
相手にとっては“ちょっとしたこと”かもしれない。
でもこちらにとっては、
毎回、無断で踏み込まれている“明確な侵入”だ。
私はスマホを手に取り、
次に取る行動を決めた。
通報。
相談。
記録提出。
やれることは、全部やる。
もう、“様子を見る”段階は終わった。
モニターの画面をもう一度見ながら、
私は小さくつぶやいた。
「次は、記録じゃなくて処理だな」
そしてそのまま、
私はある番号に指をかけた。