「何の呪いよ、これ……」
ポストから取り出した水道料金の通知書を見た瞬間、私は本気でそうつぶやいた。
金額の欄に書かれていたのは――
125,136円。
一瞬、意味が分からなかった。
普段、うちの水道代は二ヶ月で だいたい8000円前後。それがいきなり 12万円。
桁が違う。
私は何度も紙を見直した。
もしかして――
見間違い?
だがどこを見ても同じ数字だった。
水道使用量の欄には、
504m³
と書いてある。
去年の同じ時期の使用量は 42m³。
つまり、いつもの 10倍以上。
「いやいやいや、そんなわけないでしょ……」
家で水を使うのは普通の生活だけだ。
料理洗濯お風呂
特別なことは何もしていない。
私は慌てて水道局に電話した。
数分後、担当の人が出た。
「すみません、この料金なんですが……」
私は事情を説明した。
「普段は8000円くらいなんです。今回だけ12万円って、何かの間違いじゃないですか?」
電話の向こうでキーボードを叩く音がした。
そして、落ち着いた声で言われた。
「検針の数字を見る限り、実際にその水量は使用されています。」
私は思わず声を上げた。
「そんなはずありません!」
すると職員はこう言った。
「漏水の可能性があります。」
その言葉を聞いた瞬間、私は少し安心した。
「じゃあ減免とか……?」
だが返ってきた言葉は冷静だった。
「目視できない場所、例えば地中などの漏水であれば減免対象になる場合があります。」
「ですが、設備などから確認できる漏水の場合は対象外です。」
つまり――
基本的には払うしかない。
私は電話を切った。
そして家中を調べ始めた。
キッチンの蛇口。
トイレ。
洗面所。
洗濯機。
どこも漏れていない。
「おかしい……」
それでも水は504m³使われている。
こんな量、普通じゃない。
私は外に出た。
家の周りをぐるっと見て回る。
その時だった。
裏庭の方から――
水の音が聞こえた。
「え?」
耳を澄ますと、
ジャバジャバジャバ……
明らかに水が流れている。
慌てて裏庭に回った。
そして私は固まった。
そこには昔使っていた ソーラー給湯器のタンクがある。
十年以上前に壊れて、もう使っていない。
だがその本体から――
水が勢いよく噴き出していた。
チョロチョロじゃない。
完全に 全開レベルで流れている。
「え、ちょっと待って……」
私は呆然とした。
これ、いつから?
昨日?
先週?
それとも――
二ヶ月前から?
頭が真っ白になった。
急いで元栓を確認すると、ソーラータンクの給水バルブが開いたままだった。
劣化したタンクのどこかに穴が開いて、そこから水が流れ続けていたらしい。
私はすぐにバルブを閉めた。
水の音が止まる。
静かになった庭を見ながら、私はその場に座り込んだ。
「……終わった。」
頭に浮かんだのは、あの金額。
125,136円。
私はもう一度水道局に電話した。
事情を説明する。
「ソーラー給湯器のタンクから漏れていました。もう使ってない設備なんです。」
だが答えは変わらなかった。
「設備からの漏水は減免対象外になります。」
つまり――
全額自己負担。
電話を切ったあと、私は通知書をもう一度見た。
その数字を見て、思わず笑ってしまった。
「こんなんなら……」
私はつぶやいた。
「ヴィトンの財布でも買った方がよかったわ……」
それくらいの金額だ。
SNSにこの話を書いたら、すぐに反応が来た。
「え!?12万円!?」「そんなことあるの?」「水道局って教えてくれないの?」
中にはこういう人もいた。
「うちも昔、漏水でとんでもない水道代になったことある。」
どうやら珍しい話ではないらしい。
私は最後にもう一度、裏庭を見た。
静かなタンク。
十年以上使っていない設備。
本当は――
バルブを閉めておくべきだった。
ただそれだけのことで、防げたかもしれない。
そう思うと、なんとも言えない気持ちになる。
とりあえず今は、水は止まった。
でも――
あの請求書だけは、しっかり残っている。
次の引き落とし予定額の欄には、
はっきりとこう書かれていた。
125,136円。
もう一度だけ言わせてほしい。
何の呪いや、これ。