駐車場に戻った瞬間、思わず足が止まった。
「……は?」
自分の車の隣に、大きなSUVが停まっていた。
しかも普通じゃない。
車体は完全にラインを越えている。
さらによく見ると、前輪がわざと斜めに向けられていた。
そのせいで――
私の車の運転席側のドアが、まったく開かない。
最初は目を疑った。
「いやいや……嘘でしょ。」
ここは普通のコインパーキングだ。
1台1枠、誰でもわかる単純な駐車スペース。
なのにそのSUVは、まるで二台分使うような停め方をしている。
しかも、ただの駐車ミスではない。
タイヤの向きを見れば分かる。
わざと線を越える停め方だ。
私は一度車の周りをぐるっと回った。
助手席側から入れるかと思ったが、
今度はそちらが壁で、ほとんどスペースがない。
どうやっても無理だった。
「……詰んだ。」
私はため息をつき、車の横で立って待つことにした。
数分ならすぐ来るだろう。
そう思っていた。
しかし――
10分経っても来ない。
30分経っても来ない。
その間、私はただ駐車場に立ったままだ。
やがて時計を見ると、
1時間が過ぎていた。
そのときだった。
遠くから一人の男が歩いてきた。
真っ直ぐそのSUVの方へ向かっている。
「……この人だ。」
男はポケットから鍵を出し、車のドアを開けようとした。
私はすぐ声をかけた。
「すみません。」
男が振り返る。
「あなた、この車の持ち主ですよね?」
男は軽くうなずいた。
「そうですけど。」
私は自分の車を指差した。
「この停め方だと、私の車のドアが開かないんです。」
男はちらっと見ただけだった。
そして言った。
「でも出られるでしょ?」
私は思わず聞き返した。
「え?」
男は肩をすくめる。
「ちょっと寄せれば出られるんじゃないですか?」
その瞬間、さすがに頭にきた。
「もう1時間ここで待ってるんです。
」
男は少し驚いた顔をした。
「え、そうなんですか?」
私は地面のラインを指差した。
「そもそも、完全に線越えてますよね。」
男は無言で車を見た。
私は続けた。
「しかもタイヤ、わざと斜めですよね。」
男は一瞬黙った。
そして面倒くさそうに言った。
「車大きいんで。」
私は思わず笑ってしまった。
「それ理由になります?」
その場に少し沈黙が流れた。
私はスマホを取り出した。
駐車場の料金表示を見る。
ここは15分200円。
私は言った。
「1時間待ったので、追加で800円かかってるんです。」
男は眉をひそめた。
「……は?」
私ははっきり言った。
「あなたの駐車のせいで動けなかったので、その分払ってもらえますか?」
男は明らかに不機嫌になった。
「いや、それは関係ないでしょ。」
私は冷静に答えた。
「じゃあ管理会社に連絡します。」
そう言って駐車場の看板を指差した。
「迷惑駐車のトラブル対応って書いてありますよね。」
男はその看板を見た。
そして、少し考えたあと――
「……わかりましたよ。」
ポケットから財布を出した。
千円札を一枚取り出して、私に差し出す。
「これでいいですか。」
私はそれを受け取った。
「ありがとうございます。」
男はそのままSUVに乗り込み、エンジンをかけた。
そしてハンドルを切り直し、車を動かした。
そのとき私は気づいた。
さっきまであんな停め方だったのに――
車は一発で綺麗に枠の中に収まった。
つまり、
停められないわけじゃない。
ただ、
最初からちゃんと停める気がなかっただけ。
私はようやく車に乗り込んだ。
エンジンをかけ、ゆっくり車を出す。
横を通るとき、SUVの車内がちらっと見えた。
男は前を向いたまま、こちらを見ようともしない。
私は窓越しに一言だけ言った。
「最初からそう停めてくれれば良かったんですけどね。」
男は何も答えなかった。
駐車場を出たあと、私はふと思った。
あの停め方――
下手だったんじゃない。
ただ、面倒だっただけだ。
そして結局、
その“面倒”のツケは――
ちゃんと本人に払わせることになった。