うちの呉服店は、老街の角にある。観光客がふらっと曲がってくる、ちょうどその拐角。
店は小さいけど、入口の木の看板だけは立派だ。父が残してくれた手書きの文字で、墨が日に焼けて少し灰色になってる。それでも、俺は替えない。これだけは替えたくない。
その横に、もう一枚。
「本店専用駐車位 無断駐車は料金を頂きます」
……問題は、地味すぎることだ。
無断駐車、増えた。雨上がりの雑草みたいに。
紙を挟めば剥がされる。
料金表を立てれば見ないふり。
警察に相談したら「民事ですね」。
ロープを張れば切られる。
俺はずっと、豆腐で車輪を止めようとしてた。
俺は普段、日本にいない。長く海外にいる。台湾や東南アジアを行ったり来たりで、店は親戚に任せて、俺は仕入れと段取り担当。帰国は不定期。だから余計に、無断駐車の“常連”に舐められてたと思う。
そして、あの夜。
帰国して荷物を置き、時差ボケのまま店を見に行ったら——まただ。
見たことない車が、当たり前みたいにスッと入って、当たり前みたいに停まった。
俺は、その瞬間に決めた。
「もう、言い合いはしない」
怒鳴らない。殴らない。傷もつけない。
でも、“二度とやらない”と思わせる。
俺は一言も言わず、ただ自分の軽バンをゆっくり前に出した。
相手の車の前に、ぴたり。
出られない距離で止める。
クラクション?鳴らさせない。鳴らす前に勝負は決める。
そしてフロントガラスに紙を一枚。
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