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『乾かないね』と呟いただけだった——三日後、更衣室の空気が凍り、すべてが“別のルール”に変わっていた
2026/01/22

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「風、ちょっと弱いですね。」

それだけだった。
ただの独り言のような、軽い一言だった。

仕事帰り、いつもの銭湯。
古い木のロッカー、少し色あせた料金表、瓶コーラの自販機。
派手ではないけれど、落ち着く場所だった。

湯上がり、更衣室のドライヤーの前に立つ。
風が弱い。
別の台に変えても、やはり弱い。
後ろには人が並び始めていた。

「風、弱いな……」

誰かに向けた言葉ですらなかった。

それから三日後。

更衣室に入ると、ドライヤーが透明なケースに入れられ、

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そこに貼り紙があった。

「一部のお客様からの“心無い声”を受け、本日よりドライヤーは有料(100円)とさせていただきます。何卒ご理解ください。」

立ち尽くした。

“心無い声”。

あの一言が、
そう呼ばれたのだと、すぐに分かった。

更衣室は妙に静かだった。
小銭を探す人。
濡れたまま髪を結ぶ人。
何も言わず、外に出ていく人。

帰宅後、SNSで店の投稿を見た。
コメント欄は二つに割れていた。

「無料に文句言う方が悪い」
「風が弱いのは事実でしょ」

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「入浴料に含まれてると思ってた」
「改善点を“心無い”って切るのは違う」

店側の返信も目に入った。

「無料サービスを当たり前だと思う風潮こそが問題です。」

その一文を読んだとき、
“客”ではなく、“わがままな存在”として見られている気がした。

それから少しずつ、客足は減った。

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