終電を逃した夜、疲れ切った体でタクシーに乗った。
街のネオンがフロントガラスに流れ、早く家に帰りたい、それだけを考えていた。
到着してメーターを見る。
「1,300円になります。」
財布から一万円札を出して差し出した。
運転手は顔も上げずに言った。
「小さいのないですか?」
探してみる。千円札はない。
少しでも手間を減らそうと思い、こう返した。
「10,300円ならあります。」
すると、間髪入れずに。
「そーじゃなくて千円。」
命令のような口調だった。
一瞬、言葉を失った。
「……ないです。」
そう言うと、今度は苛立ちを隠さずに。
「じゃーカードで。」
この日は、たまたまカードが使えなかった。
「現金で払います。」
その瞬間、運転手の声が一段低くなった。
「お釣りないけど、どーすんの?」
――“ないけど、どうする?”
謝罪も、相談もない。
問題はすべてこちら側に投げ返された。
胸の奥に、じわりと熱が広がった。
それでも、まずは冷静に言った。
「お釣りを用意するのは、運転手さん側ではないですか?」
ハンドルが強く叩かれ、車は路肩に止まった。
後ろから車のライトが照らし、クラクションが遠くで鳴る。
「だから無いって言ってるでしょ。どうするんですか?カードで。」
車内の空気が凍りついた。
この時、コンビニに寄って崩す選択もできた。
いつもなら、そうしていたかもしれない。
けれど、その言い方が、
“客”ではなく、“厄介者”として扱われた感覚が、
どうしても飲み込めなかった。
スマートフォンを取り出し、
ドア横に貼られていた会社の番号に電話をかけた。
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