福島への出張を終えた帰りだった。
仕事を終えて、ようやく一息つきながら特急「ひたち」に乗り込む。この列車は全席指定。特急券を持っている人だけが座れる。
座席の上には小さなランプがあり、指定席券を持っていると緑色に点灯する。持っていない場合は赤色のままだ。
慣れている人なら、ランプを見るだけで誰が特急券を持っているか分かる。
私は窓側の席に座り、しばらくスマホを見ていた。
すると途中の駅で、外国人の男女グループが乗ってきた。
見た感じ、東南アジア系の若い男女が5人。
彼らは車内を見回すと、それぞれ空いている席にバラバラに座った。
その時、少し違和感を覚えた。
何気なく座席の上を見る。
すると――
全員、ランプが赤。
つまり、
特急券を持っていない。
まあ、こういうことはたまにある。特急列車では、乗ってから車掌に特急券を買うこともできる。
だから最初は、
「そのうち車掌が検札に来るだろう」
そう思っていた。
しかし、列車はそのまま走り続ける。
水戸を過ぎても、まだ車掌は来ない。
ふと周りを見ると、外国人グループは普通に座ってスマホをいじったり、笑いながら話したりしている。
もちろん、座席ランプは
ずっと赤のまま。
さすがに気になってきた。
このまま上野まで行ったら、普通にタダ乗りになるんじゃないか?
そう思い、一番近くに座っていた男に声をかけた。
「特急券、持ってる?」
男は少し驚いた顔をして、
「No」
と答えた。
やっぱりか。
「じゃあ、買う予定?」
そう聞くと、
「I don‘t know」
と曖昧な返事。
正直、少し腹が立った。
この列車に乗っている人はみんな特急券を払っている。
それなのに、平然と座っている。
しかも、車掌はまだ来ない。
列車はもうすぐ上野に着く。
このままだと、本当にタダ乗りだ。
私は席を立った。
「ちょっと車掌呼んできます」
そう言ってデッキへ向かった。
幸い、すぐに車掌が見つかったので事情を説明する。
「指定席ランプが赤のままの外国人グループがいるんですが」
車掌は少し驚いた顔をして、
「確認します」
と言い、車内へ向かった。
私は席に戻る。
すると車掌が彼らに声をかけた瞬間、
彼らの態度が一気に変わった。
「有料とは知らなかった」
「日本語わからない」
「わからない、わからない」
さっきまで普通に話していたのに、急に
日本語が分からないふりを始める。
車掌も少し困った様子だった。
そこで私は思い出した。
実は大学時代、留学していたことがある。
日常会話レベルなら英語で普通に話せる。
私は思わず口を挟んだ。
「Let me explain.」
外国人たちがこちらを見る。
私は英語で言った。
「This train needs a limited express ticket.Everyone here already paid for it.
」
すると、彼らの表情が少し変わった。
どうやら、意味はちゃんと分かっている。
車掌が料金を説明する。
外国人たちは顔を見合わせ、少し小声で話し合い始めた。
そして――
渋々、財布を取り出した。
結局、
全員が特急券を購入することになった。
それから数分後、列車は上野に到着した。
外国人グループはそのまま降りていく。
ドアが閉まり、車内は急に静かになった。
私はふと周りを見渡す。
さっきまで少しざわついていた車内は、いつもの落ち着いた空気に戻っていた。
思わず小さく息をつく。
「本当に、ふざけるなよ……」
心の中でそう呟いた。
ここは日本だ。
特急列車には特急券が必要。
そんな基本的なルールくらい、守ってほしい。
そして、もう一つ思った。
もし、あの時私が何も言わなかったら――
あの5人はきっと、
そのままタダ乗りしていたんじゃないだろうか。
そう考えると、
車掌を呼びに行ったのは間違っていなかったと思う。
そしてもう一つ。
留学して英語を勉強しておいて、こんなところで役に立つとは思わなかった。