あの日の昼前、店の駐車場でとんでもない音が響いた。
ドンッ!!!
建物全体が揺れたような衝撃。事務所にいた私は思わず立ち上がった。
「今の音…何?」
スタッフ数人と一緒に外へ出ると、そこにあった光景に全員が言葉を失った。
店の壁に、大きな穴が空いていた。
コンクリートの壁が砕け、中の鉄骨までむき出しになっている。
「え……?」
数秒遅れて、状況を理解した。
車が突っ込んだんだ。
でも——
その車は、もうそこにはいなかった。
「……逃げた?」
誰かが小さくつぶやいた。
周りを見ると、駐車場の車止めがひっくり返り、壁の破片が散乱している。
かなりのスピードで突っ込んだのは明らかだった。
しかも、壁の向こう側はエレベーターの設備スペース。
すぐに確認すると、案の定——
エレベーターが停止。
店長は頭を抱えた。
「マジかよ……」
幸いケガ人はいなかったが、店の営業にも影響が出る。
それ以上に腹が立ったのは、
事故を起こした車が、そのまま逃げたことだった。
普通ならどうする?
ぶつけたなら
謝る 連絡先を残す 保険会社に連絡する
最低でも、それくらいはする。
なのにその車は、
何事もなかったように消えた。
店長が言った。
「……警察呼ぼう」
すぐに通報した。
警察が来て、現場検証が始まる。
警察官は壁を見て、驚いた顔をした。
「これは…結構な勢いですね」
私たちも同じことを思っていた。
この破壊力で
気づかないはずがない。
つまり——
分かっていて逃げた。
警察官が聞いた。
「防犯カメラはありますか?」
店長はすぐ答えた。
「あります」
この店は、駐車場にもカメラがある。
録画を確認すると、
すぐに映像が見つかった。
そこに映っていたのは——
一台の車。
駐車場に入ってきて、バックしようとした瞬間。
突然、アクセル全開。
次の瞬間——
ドンッ!!!
そのまま壁に突っ込んだ。
店内のスタッフ全員が
「うわ…」
と声を漏らした。
だが、本当に信じられなかったのは
その次の行動だった。
車は数秒止まったあと、
ゆっくりバックして——
そのまま走り去った。
店長が呆れた顔で言った。
「……マジかよ」
警察もため息をついた。
「これは当て逃げですね」
しかしこの時代、
逃げれば終わりというわけではない。
防犯カメラは
車種 色 ナンバー
全部、はっきり映していた。
警察官は言った。
「車はすぐ特定できます」
それから数日後。
警察から連絡が来た。
「車、分かりました」
しかも——
相手はまさかの人物だった。
なんと
近くに住んでいる人間。
しかも、店の常連客。
店長は思わず言った。
「……え?」
さらに驚いたのは、その理由だった。
どうやら運転していたのは
高齢のドライバー。
駐車しようとして
アクセルとブレーキを踏み間違えた。
ここまでは、よくある事故だ。
問題はその後だった。
警察が事情を聞いたところ、
そのドライバーはこう言ったらしい。
「怖くなって、そのまま帰った」
店長はそれを聞いて、苦笑した。
「いやいや…」
怖いのは
こっちだろ。
壁は壊れ
エレベーターは止まり
店の営業にも影響。
それなのに、
事故を起こした本人は
そのまま帰宅。
しかし結果的に、
その判断は
最悪の選択だった。
もしその場で
「すみません」
と一言言っていれば
ただの事故で終わったかもしれない。
だが
逃げたことで、完全に当て逃げ。
警察案件になった。
店長は最後にこう言った。
「悪いことしたら謝る」
本当は、それだけでいい。
でもそれが出来ない人が、
意外と多い。
ただ一つ言えることがある。
この時代、
防犯カメラは嘘をつかない。
逃げても、
ちゃんと見ている。