「てめぇ箸が入ってないだろーが‼️」
レジ前に、その怒鳴り声が響いた瞬間、店内の空気が止まった。
夕方のスーパー。
レジはそこそこ並んでいて、電子音と袋のカサカサという音が混じる、いつもの風景だった。
それをぶち壊すような声だった。
目の前にいた年配の男が、会計を終えた直後、店員さんに向かって怒鳴っている。
「箸が入ってねぇだろーが‼️ 何やってんだよ‼️」
店員さんは明らかに動揺していた。
「申し訳ございません、すぐにお入れします」と何度も頭を下げる。
でも男は止まらない。
「ちゃんと確認しろよ‼️ てめぇ仕事なめてんのか‼️」
二段目。
レジの電子音が一瞬止まり、後ろに並んでいた人たちがざわつく。
子どもが母親の手を握り直した。
店員さんの手が震えているのが見えた。
三段目。
「客なめてんじゃねぇぞ‼️」
そこまで来て、私の口から漏れた。
「叫ばんでも聞こえてるわ。うるせーよ。」
自分でも驚くくらい、はっきり言ってしまった。
男がゆっくり振り向く。
「やんのかてめぇ‼️」
店内の視線が一斉にこちらへ集まる。
さっきまで店員さんに向いていた怒りの矛先が、今度は私に向いた。
でも、不思議と怖くなかった。
私は一歩も動かず、目を逸らさずに言った。
「上等だ。やるならやるよ。表出るか?」
静まり返る店内。
男は一瞬、言葉を失った。
さっきまでの勢いはどこへいったのか、目だけが泳ぐ。
店員さんが慌てて言う。
「すみませんお客様」
なぜか、私の方に。
私はレジ前で、はっきりと聞こえる声で言った。
「あーいう口だけの人がいると、店員さんも大変ですねぇ。お疲れ様です。次は警察呼びましょうね。」
わざとだ。
店内に聞こえるように。
男の顔が一瞬で変わった。
さっきまで“王様”みたいに怒鳴っていたのに、急に周囲を気にし始める。
視線が自分に集まっていることに、ようやく気づいた顔だった。
誰も、彼を擁護していない。
レジの後ろの女性が、露骨に距離を取った。
店員さんは黙っている。
でも目は、もう怯えていない。
男は、喉の奥で何か言いかけて——
結局、何も言えなかった。
「……」
そして、小走りで出口へ向かった。
さっきまで怒鳴っていた声の主が、だ。
自動ドアが開いて、閉まる。
静寂が戻る。
レジの電子音が再開した。
私は何事もなかったように前に進んだ。
店員さんが小さな声で「ありがとうございます」と言った。
私は軽く笑って返した。
「いや、箸ぐらいであそこまで怒鳴る方がどうかしてますよ。」
本当にそう思った。
箸が入ってなかった?
それなら、普通に言えばいい。
怒鳴る必要なんてどこにもない。
そして、女だからって、黙ると思ったら大間違いだ。
声が大きい人ほど、外では何もできない。
さっきまで威勢よく「やんのか」と言っていた男は、結局、表に出ることもできなかった。
口だけ。
それが一番ダサい。
レジを終えて店を出ると、外の空気が少し涼しかった。
私は思った。
女だからって、なめる相手を間違えるなよ。
怒鳴れば勝てる時代じゃない。
声が大きいだけの人間に、もう誰も怯えない。
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