「サービス、分かってる?私はただの『手助け』を求めてるわけじゃないんだから!」
その一言が、私の胸に深く突き刺さった。
あの日、私はいつものようにタクシーで街を走っていた。突然、無線で指示が入った。視覚障害のある女性を迎えに行くことになった。天気は悪く、雨が降りしきっていたが、私はただプロとして仕事をこなすだけだと思っていた。
女性がアパートから出てきた時、彼女の足元は不安定で、傘を取るのも、靴を履き替えるのも、時間がかかっていた。私は待つことに少しだけ苛立ちを感じつつも、彼女を待っていた。だって、そうするのが仕事だから。やがて車に乗り込んだ彼女は、無言で座り込み、静かな空気が車内に広がった。
運転を始めた途端、彼女が口を開いた。
「どうしてこんなに遅いの?プロなんでしょ?」
私は一瞬驚いたが、冷静を保とうと努めた。
「今日は雨で道が混んでいます。少し時間がかかります。」
「理由にならない!もっと早く走ってよ!」
私の心が少しずつ乱れていった。道路は濡れていて、スピードを出せば危険も伴う。それでも彼女は止まらず、次々と注文を付けてきた。
「なんでこんなに時間かかるの?道、違うんじゃない?」
毎回、私は説明し、冷静に返すことを試みた。けれども、彼女の不満はどんどんエスカレートしていった。私はただ、目の前の女性を目的地に安全に送るだけなのに、どうしてこんなに叱られなければならないのか、心の中で何度も自問した。
目的地に到着した時、私は車を停めて、無意識に手を差し出した。
「お手伝いしましょうか?」
その瞬間、彼女が怒鳴った。
「触らないで!」
彼女の声が私を突き刺す。
私はただ手を差し伸べたかっただけなのに、なぜこんな反応をされなければならないのか、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
「申し訳ありません、手を貸そうと思っただけです。」
しかし、彼女はそれに答えなかった。無言で車を降り、私の前から消えていった。その後ろ姿を見送りながら、私の心は完全に空っぽになった。
あの時、私は何をしたのだろう?
私はただ、自分の仕事をしていただけだと思った。でも、彼女には私の行動があまりにも不快だったのかもしれない。視覚障害のある人にとって、他人が自分に触れることは恐怖や不安を引き起こすことがある。私はそのことに全く気づいていなかった。
それに、私は本当に「親切」であるつもりだった。けれど、彼女の目にはそれがただの「お節介」に見えてしまったのだろうか? 自分がどれだけ善意を持って接しても、相手にはそれがどう受け取られるか分からない。私はその点を完全に見落としていた。
その後、車に戻った私は、何度もその出来事を反芻した。
「自分がやったことは間違っていたのか?」
答えは出なかった。何度考えても、彼女の反応が理解できなかった。それでも、心のどこかで、「もっと考えるべきだったのでは?」と思う自分がいた。
タクシードライバーとして、私は毎日多くの人と接する。しかし、その一瞬一瞬で何が正しいのか、何が間違っているのかを見極めるのは本当に難しい。彼女が求めていたのは、「サービス」ではなく、もしかしたら「尊重」だったのかもしれない。それに気づけなかった自分が悔しかった。
彼女のように、私たちが普段の生活では理解できない苦しみを抱えている人々がどれほど多いのだろう。私たちがどんなに思いやりを持って接しようとしても、相手にはそれを拒絶する理由があるのだということを、私はもっと理解しなければならない。