その日、私はタイムズカーを借りて外出していた。
用事を終え、時間を確認すると、返却時間まであと20分ほど。
「まあ余裕だな」と思いながら、いつもの返却ステーションへ車を走らせた。
ところが、駐車場に入った瞬間、私は思わずブレーキを踏んだ。
……え?
本来、私が車を返却するはずのスペースに、
見知らぬ軽自動車が堂々と停まっていたのだ。
地面には大きく黄色い表示で書かれている。
「タイムズカー専用」
誰が見てもわかるはずの表示なのに、そこには普通の一般車が停まっている。
「嘘だろ……」
思わず声が出た。
時間を見ると、返却まで残り10分。
タイムズカーは、返却時間を過ぎると延長料金が発生する。
しかもカーシェアの延長料金は意外と高い。
私は急いで車を停め、タイムズのコールセンターに電話をかけた。
しかし――
「ただいま電話が大変混み合っております」
機械音声が流れるだけで、なかなか繋がらない。
時計を見る。
残り7分。
正直、焦っていた。
このままでは、他人の違法駐車のせいで自分が延長料金を払うことになる。
ふとその時、私は一つの考えが浮かんだ。
「……じゃあ、こうするか」
私は車をゆっくり動かし、
その違法駐車の軽自動車の後ろにぴったりと車を停めた。
完全に出られない位置だ。
そしてそのまま車を降り、腕を組んで待つことにした。
しばらくすると、近くの自販機の前にいた人や通行人が、状況に気づいてこちらをちらちら見ている。
すると数分後――
コンビニ袋をぶら下げた男が、のんびり歩いてきた。
そして自分の車を見るなり、眉をひそめた。
「……あれ?」
その男は私の車を見て言った。
「ちょっと、出られないんだけど。どかしてくれる?」
私は静かに地面を指さした。
そこには、はっきりと書かれている。
「タイムズカー専用」
そして言った。
「ここ、カーシェアの返却スペースなんですけど。」
男は一瞬だけ地面を見たが、すぐに肩をすくめた。
「いや、ちょっと停めただけだし。」
その一言で、私の中で何かが切れた。
「ちょっと停めただけ、ですか?」
男は平然と続ける。
「すぐ出るからいいじゃん。」
私は時計を見せた。
「返却時間、もうすぐなんですけど。」
男は少し面倒そうに言った。
「まあ少しくらい大丈夫でしょ。」
その瞬間、周りで見ていた人たちから小さく笑いが漏れた。
私は落ち着いた声で言った。
「じゃあ、延長料金払ってくれます?」
男は一瞬固まった。
「……は?」
私は続けた。
「ここに停められてるせいで返却できないんですよ。
だから、延長料金はあなたが払うってことでいいですよね?」
周りの空気が一気に変わった。
通行人の一人がぼそっと言った。
「それはそうだよな……」
別の人も小さくうなずく。
男の顔色が少しずつ変わっていく。
「いや……それは……」
私は車のキーを見せて言った。
「払ってくれるなら、すぐ車どかしますよ。」
数秒の沈黙。
そして男は、急に慌てたように言った。
「……わかった、わかった!すぐ出る!」
そう言うと、慌てて車に乗り込み、エンジンをかけた。
周りからはクスクスと笑い声が聞こえる。
車が動き、やっとスペースが空いた。
私はすぐに車をそこへ停め、アプリで返却操作を完了した。
ギリギリ、延長料金はかからなかった。
車から降りると、その男が気まずそうにこちらを見ていた。
私は最後に一言だけ言った。
「ルール守れないなら、運転しない方がいいですよ。」
男は何も言えず、そのまま車を走らせていった。
そして周りにいた人たちは、思わず笑っていた。
正直、思った。
世の中、
ルールを守らない人ほど「少しくらい」と言う。
でもその「少し」が、
誰かを本気で困らせていることもある。
あの日、私はそれをはっきり伝えただけだ。