あの日、ポストに入っていた封筒を見た瞬間、私は少しだけ嫌な予感がした。
会社の名前。
しかも本社から。
やけにきっちりした紙の重み。
嫌な予感というのは、だいたい当たる。
そして、こういう会社に限って、そういう予感だけは裏切らない。
部屋に入って、コートも脱がずに封を切った。
紙を開いた瞬間、私は思わず眉をひそめた。
退職願。
いや、待って。
私はまだ何も出していない。
辞めたいとは思っていた。かなり前から。
この会社、やっぱりどこかおかしい。
空気が妙に湿っていて、何かあるたびに責任だけが下に落ちてくる。
上はいつも無傷。
そんな構造が透けて見えていたから、もう潮時だなとは思っていた。
でも、だからといって。
なんで本社が、先回りして、私の退職願を作って送ってくるのか。
しかも内容がすごかった。
一方的。
見事なくらい一方的。
こっちの事情も経緯も感情も全部すっ飛ばして、「要するにお前が迷惑をかけたからこうなった」みたいな書きぶりになっていた。
私は紙を持ったまま、しばらく固まった。
笑えばいいのか、怒ればいいのか、一周回ってわからなくなった。
いやいや。
退職願って、普通は本人が自分の意思で書くものでしょう。
まさか会社側がテンプレートまで用意して、「はい、これに沿って自分が悪かったことにして辞めてね」と言わんばかりの流れを作ってくるとは思わなかった。
ここまで来ると、雑だ。
雑なくせに、妙に図々しい。
私はもう一度、紙を上から下まで読んだ。
そこに書かれているのは、退職の手続きというより、責任の押しつけだった。
会社にとって都合のいい形。
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