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「車が消えたんですけど…」買い物から戻ったら、駐車場に巨大なイカとお茶だけ残されていた
2026/04/29

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最初に思ったのは、

「いや、場所を間違えた?」

だった。

買い物袋を両手に提げて、さっき停めたはずの列まで戻った。

雨で白線が少しにじんでいて、駐車場全体が同じように見える。

でも、間違えるはずがない。

入口から3列目。

右側に自販機。

少しだけ斜めに停めたのを自分で覚えている。

なのに、そこに私の車がない。

代わりに、地面に横たわっていた。

巨大なイカ。

しかも、近くにお茶。

意味が分からなすぎて、しばらく声が出なかった。

盗難?

置き土産?

交換?

いや、車とイカの物々交換って何。

しかもお茶付き。

親切なのか、挑発なのか、文化なのか。

頭の中だけが忙しく動いて、体は完全に止まっていた。

通りかかったおばあちゃんが、私の横で足を止めた。

そして、イカを見て、私を見て、またイカを見た。

「……立派ねぇ」

そこ?

第一声そこ?

私は思わず、

「私の車、なくなってるんです」

と言った。

するとおばあちゃんは、少し考えてから、

「でも、お茶もあるわね」

と言った。

だからそこじゃない。

いや、たしかにある。

ちゃんとある。

でも今は、お茶の有無より車の有無が大事だった。

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私は買い物袋を足元に置いて、もう一度周囲を見回した。

同じ色の車。

似た形の車。

濡れたアスファルト。

白線。

看板。

入口。

何度見ても、さっきの場所に車はない。

そしてイカはある。

ここだけ現実感がバグっていた。

一応、車のキーを押してみた。

ピッ。

どこかで小さく音が鳴った気がした。

え?

もう一度押す。

ピッ。

音はする。

でも目の前にはイカ。

まさか、このイカが反応してる?

一瞬、本気でそう思った自分が嫌になった。

冷静になれ。

これはイカだ。

キーで開くタイプのイカじゃない。

私は音の方向へ歩いた。

すると、2列向こうに私の車があった。

普通にあった。

きれいに停まっていた。

鍵も反応している。

ただ、私の記憶の中の駐車位置だけが、堂々と間違っていた。

つまり。

車は消えていない。

私が勝手に、違う場所で絶望していただけ。

じゃあ、あのイカは何だったのか。

そこが一番分からない。

安心した途端、今度は好奇心が勝った。

私はもう一度、イカの場所に戻った。

やっぱりいる。

大きい。

冗談みたいに大きい。

そして、お茶。

誰かが「ちょっと置いておきますね」というテンションで置いたにしては、存在感が強すぎる。

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近くにいた男性に聞いてみた。

「あの、これって誰かのですか?」

男性はスマホから顔を上げて、イカを見た。

「ああ、さっき軽トラの人が置いてましたよ」

軽トラの人。

情報が急に漁港になった。

「忘れ物ですかね?」

と聞くと、男性は普通の顔で言った。

「たぶん、受け渡しじゃないですかね」

受け渡し。

駐車場で。

巨大なイカとお茶を。

日本、たまに想像の斜め上から平和を出してくる。

普通なら、駐車場にこんなものがあったら大騒ぎになりそうなのに、周りの人たちは案外落ち着いていた。

二度見はする。

写真も撮る。

でも誰も荒れていない。

むしろ、

「新鮮そう」

「重そう」

「お茶があるのがいい」

みたいな空気。

私だけが、車を失った人みたいな顔でパニックになっていた。

しばらくすると、本当に軽トラが戻ってきた。

運転していたおじさんが、何事もなかったように降りてきて、

「あ、すみません、邪魔でした?」

と言った。

邪魔とかの問題ではない。

でも、おじさんの顔があまりに自然すぎて、こちらもつられて普通に返してしまった。

「いえ、大丈夫です。ちょっと車が消えたかと思って」

おじさんは笑った。

「それはイカのせいじゃないですね」

その通りすぎて何も言えない。

おじさんはイカを抱えるようにして軽トラに積み、お茶も忘れずに回収した。

そして最後に、

「冷えてるうちに渡さないとね」

と言って去っていった。

冷えてるうちに渡すものが、駐車場に横たわる巨大なイカ。

この国、まだまだ奥が深い。

私は自分の車に戻りながら、さっきまでの焦りが一気に恥ずかしくなった。

車はちゃんとあった。

イカもちゃんと持ち主がいた。

お茶もセットだった。

誰も困っていない。

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ただ私だけが、頭の中で大事件にしていただけ。

でも、正直ちょっと救われた。

最近、駐車場で嫌なニュースやトラブルの話ばかり見ていたから、こういう意味の分からない平和に笑ってしまった。

車がなくなったと思ったら、

そこに巨大なイカとお茶。

そして数分後、軽トラのおじさんが普通に回収。

こんなオチ、誰が想像できるのか。

帰り道、私は何度も思い出して笑った。

怖い話になりそうで、ならない。

迷惑そうで、妙にきちんとしている。

不気味そうで、最後はただの受け渡し。

日本の駐車場、たまに情報量が多すぎる。

でも、あのおじさんが最後にお茶まできっちり持っていった瞬間だけは、なぜか妙に安心した。

やっぱり、あれは忘れ物じゃなかった。

車の代わりでもなかった。

ただの、冷えたイカとお茶の待ち合わせだった。

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