博多→東京、のぞみ。全席指定。満席。
トイレ行った帰り、トイレ前に“邪魔なくらい”立ってる親子連れがいた。嫌な予感しかしない。
予感、的中。
「すみませ〜ん、子どもがぐずってて…席を2つ譲ってもらえますか?」
……は?2つ?
俺、即返す。
「どういう意味?」
「私に4時間、立ってろってこと?」
相手、しれっと言う。
「子どもが泣いてて…座りたくて…」
「それ、てめぇの都合だよね。」
「全席指定だよ。座りたいなら買え。」
次の瞬間。
「チッ。」
舌打ちだけして、デッキへスルッと戻っていった。
腹立つ。舌打ちする前に切符買えよ、ボケ。
で、こういうタイプは終わらない。成功体験ある顔してんだよ。
案の定、数分後に車内がザワつく。
「え、2席って…」「また声かけられた…」
やってる。トイレ前で待ち伏せして、片っ端から当たってる。
俺、車掌を探して短く言った。
「トイレ前で“席2つ譲れ”って声かけ回ってます。断ったら舌打ち。迷惑です。」
車掌、無表情で「承知しました」。
そのままデッキへ直行。
で、次に聞こえたのが——相手の“被害者ムーブ”。
「だって子どもが泣いてて…かわいそうじゃないですか…!」
車掌の声、低い。淡々。
「ここは全席指定です。指定券はお持ちですか?
」
一拍。
相手、詰まる。
「…取れなくて…」
車掌、即トドメ。
「指定券がない場合、座席は使用できません。」
「ほかのお客様に席を譲るよう求める行為は迷惑行為です。
今すぐやめてください。」
「続く場合は次駅で係員対応になります。」
——空気、凍る。
周りの視線が一斉に相手に刺さって、逃げ場ゼロ。
さっきまで舌打ちしてた口が、ピタッと止まる。
言い返せない。だって正論ど真ん中。
そしてここからが最高にスッキリしたところ。
車掌が車内放送を入れた。
「本列車は全席指定です。指定券をお持ちでないお客様は、デッキ等でお過ごしください。
また、ほかのお客様へ座席の譲渡を求める行為はご遠慮ください。」
――名指しはしてないのに、完全に“あいつ宛て”。
車内のザワつきがスッと消えて、みんな黙って頷いてる空気になる。
相手だけが、デッキの隅で小さくなる。さっきの勢いどこいった。
俺は席に戻って、深く座り直した。
窓の外が流れていく。
母でも子どもでも関係ない。ルール破って他人から奪うのは違う。
最後に、トイレに向かう途中ですれ違ったとき、俺は小さく言った。
「舌打ちする暇あんなら、次から指定席取れ。以上。」
相手、何も言えずに目を逸らした。
……ざまぁ。