夫がその瓶ビールを、彼に半分注いだ瞬間、
私はふと気づいてしまった。
――私たち、ずっと奢ってきたんじゃない?
その日は特別なことなんて、何もなかった。
いつも通りの週末、いつも通りの昼。
いつも行く、あの店。
店員さんがメニューを置くと同時に、夫は迷いなく言った。
「瓶ビール一本お願いします。」
その言葉を口にした時、彼はメニューから目も上げなかった。
向かいに座る友人の夫が、笑いながら言う。
「いやいや、あなたが飲めばいいですよ。」
夫も笑って返す。
「まあまあ、一緒に。」
瓶が開けられ、
グラスはひとつだけ。
夫はビールを注ぎ、そのグラスを中央に置き、
また自然な動作で彼の方へ半分注いだ。
まるで、何度も繰り返してきた儀式みたいに。
「……あ、足りないな。」
瓶を見て、相手を見て、夫は言った。
「もう一本頼もうか。」
その瞬間、胸の奥がざわついた。
怒りじゃない。
お金の問題でもない。
ただ、あまりにも見慣れた光景が、
急にスローモーションになっただけ。
二本目のビールが運ばれてくる。
相手は、やっぱり自分では頼まない。
「僕も一本ください」とも言わない。
いつもと同じ。
私は箸を動かしながら、頭の中で記憶が巻き戻されていった。
最初は十年前。
子どもがまだ小さくて、付き合い始めたばかりの頃。
仲がいいから、どちらが払っても同じだと思っていた。
二回目、三回目、四回目……
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