「お前のバイク、そんなにスペースいらないだろ?」
月極の契約区画に他人の車が止まっているのを見た瞬間、その声が背後から飛んできた。
俺は振り返らない。
まず自分の番号を確認する。区画番号、契約書の写真、全部スマホに残してある。
俺の場所だ。
なのに、軽自動車がど真ん中に鎮座している。
俺のバイクは端に押しやられ、スタンドがぎりぎり。少しでも傾けば倒れる位置だ。
「空いてんだからいいだろ。資源の無駄って言ってんの」
振り向いた。
隣の区画の男。ニヤついている。
俺は一歩近づいた。
「ここ、俺の契約だ」
それだけ言った。
「は? たかがバイクで一枠とかケチくさ。毎日止めてねぇじゃん」
口が軽い。
謝る気もない。
俺はそれ以上言わなかった。
バイクを引き出し、ゆっくり方向転換する。
そして——
軽のフロントに対して、斜めに横付け。
前輪をぴたりとバンパーに寄せる。
ハンドルロック。
鍵を抜く。
男が叫ぶ。
「おい、何してんだよ!」
俺は振り向く。
「俺の区画だ」
それだけ。
部屋に戻った。
翌朝、七時二十分。
インターホンが鳴り止まない。
ドアを開けると、顔色の変わった男が立っていた。
「ちょ、どかしてくれ! 今日重要な会議なんだよ!」
ネクタイが曲がっている。
汗が額に浮いている。
俺は壁にもたれたまま言う。
「俺の区画だ」
「だから昨日のは悪かったって! でも遅刻すんだよ!」
「止めたのは誰だ」
短く、刺す。
男の口が止まる。
「……空いてたから」
「空いてねぇ。契約だ」
沈黙。
下でエンジンをかけようとしても、俺のバイクが完全に前を塞いでいる。
押しても動かない。ロック済みだ。
「頼むって。会議、マジでやばいんだ」
「二度と止めないなら」
間を置く。
「言え」
男は唇を噛む。
周囲の住人がカーテンの隙間から見ているのがわかる。
月極は狭い。視線は逃げない。
男は視線を落とした。
「……もう停めません」
俺はじっと見た。
「聞こえない」
「もう停めません!」
はっきり言わせた。
俺はゆっくり階段を降り、バイクのロックを外す。
エンジンをかけ、数秒そのまま待つ。
男は車に飛び乗り、バックする。
窓を開け、こちらを見た。
「……すまん」
俺は頷きもしない。
「契約、なめるな」
それだけ言った。
それ以来、俺の区画に他人の車は一度も入っていない。
あいつは俺と目が合うと逸らす。
資源の無駄?
空いてるから?
違う。
空いて見えるだけで、権利は消えない。
使わない自由も、俺のものだ。
そして何より——
俺の場所だ。
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