国民的番組として知られるNHK紅白歌合戦で、韓国のガールズグループaespaが初出場を果たした。しかし本番直前になって、メンバーのニンニ(NINGNING)が欠場するという異例の事態が起きる。公式発表ではインフルエンザによる体調不良が理由とされ、当日は3人でのパフォーマンスとなった。生放送で進行が秒単位で管理される紅白において、直前の欠場は本人にとっても番組側にとっても負担が大きく、視聴者の関心も一気に集まった。
ただし議論の中心は「病欠は仕方ないのか、逃げなのか」という二択にとどまらなかった。そもそもの火種は2022年に遡る。ニンニがファン向け有料プラットフォーム(Bubble)で、いわゆる“キノコ雲”を想起させる形状の卓上ランプを投稿し、「可愛いライトを買ったよ」といった趣旨のコメントを添えていたとされる。当時は大きな問題にならなかったが、2025年11月に紅白出場が発表されると、この過去投稿が再注目され、SNSで急速に拡散した。広島・長崎の原爆被害を連想させるとして「配慮に欠ける」「歴史認識が軽い」との批判が噴出し、出演停止を求めるオンライン署名が短期間で大きく伸びた、という流れである。
この状況で注目されたのが、公式側が出した説明文だった。「特定の目的や意図はなかったが、様々な懸念を生じさせた。今後はより一層注意を払う」といった内容は、一見すると沈静化を狙った定型的な危機対応に見える。しかしネットの反応はむしろ厳しくなった。理由の一つはタイミングで、紅白出演決定後に炎上が拡大してからの対応が遅い、という印象を与えた。もう一つは言葉の選び方で、文章のどこにも明確な「謝罪」がない、という指摘が相次いだ。多くの人にとってそれは反省よりも弁明に映り、「謝る気がないなら許す気もない」という強い反発につながったのである。ここで問題になったのは、投稿の真意がどうだったか以上に、“誠意が感じられるかどうか”という姿勢の部分だったと言える。
さらに一部では、ニンニが中国出身であることを根拠に「政治的背景があるのでは」「謝罪できない事情があるのでは」といった推測まで飛び交った。しかしこうした話は検証可能な材料が乏しく、事実というより不信感が作り出した“別の物語”として増幅していった面が大きい。
炎上が長引くほど、人々は説明の不足を「隠しているからだ」と解釈し、解釈が先行して確証のない断定が広がる――SNS特有の構図が見え隠れする。
紅白当日も議論は止まらない。aespaが20時14分頃に登場し、20時15分頃に歌詞の一部が話題になったとして、投稿時間や言葉を原爆投下の“時間”と無理に結び付け、「狙っている」「偶然にしては出来過ぎ」といった陰謀論的な見方が拡散した。視聴者の中には、曲紹介でメンバーが一言も話さなかった点を不自然だと捉える人もいれば、沈黙は炎上を避けるための判断だったと見る人もいる。
事実関係よりも「どう感じたか」が前面に出るほど、立場の違う人同士は交わらず、対立だけが深まっていった。
今回の一連の騒動は、単なる“失言”や“誤解”として片付けるには重い。歴史的な痛みを想起させる象徴を扱う際の感度、そして危機時にどの言葉で向き合うかが、国境を越えて問われる時代になっている。多国籍グループであるほど、受け手の文化・記憶・タブーが多層的になり、曖昧な説明は「誠意の欠如」と受け取られやすい。結局、人々が最も強く反応したのは“意図の有無”よりも、“相手の痛みに対してどう向き合ったか”だったのではないだろうか。