空港ロビーで、女性の首に刃物が当てられた。
「彼女を離せ。俺が代わりになる。」
その一言が、凍りついた空気を切り裂いた。
場所はカザフスタン・アルマトイの空港。
見送りや出発で人が行き交うはずの時間帯に、突然それは起きた。
67歳の男が、女性職員を背後から掴み、首元にナイフを押し当てた。
刃先が皮膚に触れる位置。腕は震えているのに、目だけが妙に据わっていた。
「近づくな」
「来たら爆発させる」
誰かが息を呑む音がした。
子どもが泣きかけて、母親が口を塞いだ。
人波が一斉に下がり、床に見えない線が引かれたみたいに距離が生まれる。
警備も、警察も、下手に動けない。
一歩のミスが、女性の命を奪うかもしれない。
みんな分かっているからこそ、動けない。
女性の肩が小さく震えていた。
喉元に刃物。呼吸が浅くなる。
その顔を見て、周囲の誰もが「助けたい」と思う。
でも、足が前に出ない。

その時だった。
群衆の端から、ひとりの男が静かに進み出た。
52歳の一般客。見送りに来ていただけの男。
派手な服でもなく、警備の装備もない。
ただ、視線だけが真っ直ぐだった。
歩幅は大きくない。
駆けない。叫ばない。
恐怖に飲まれない速度で、ゆっくりと距離を詰める。
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