強引に奪った場所ほど、逃げ道は狭い。
ハザードを出してバックに入れた瞬間、横から突っ込まれた。
対向車線から、大妈が斜めに割り込んでくる。ブレーキを踏む間もなく、そのまま車位へ強引に頭をねじ込んだ。
クラクション。
一度じゃない。連続で。
しかもこっちを睨みつける。
危ないのはどっちだよ。
私はハンドルを握ったまま、ほんの少しだけ息を吐いた。怒鳴る気にもならない。ただ、少しだけ気分が悪い。
彼女は何事もなかったように降り、ドアを閉めた。
そのときは気づかなかった。
私はそのまま駐車場を一周した。満車だ。もう一周。やはり空きはない。
そして三周目で、やっと分かった。
さっきのあの車。
斜めに停めている。
車体が中線をまたいでいる。
一台分だったはずのスペースが、二台分潰れている。
本来ならもう一台、入れたはずだった。
私はそこでやっと理解した。
位置がなかったんじゃない。
あの停め方で、位置が消えたんだ。
少しだけ気分が重くなったが、どうしようもない。私は諦めて隣の店へ用事を済ませに行った。
「戻る頃には空くかもしれない」
そう思うことにした。
二十分ほどして戻ったときだった。
遠目で、見覚えのある車がまだそこにある。
その横に、人影。
近づくにつれて状況が見えてきた。
彼女は運転席に座り、ハンドルを握りしめていた。
右にいっぱい。
左にいっぱい。
前へ少し。
止まる。
バック。
止まる。
また前へ。
車はほとんど動いていない。
両側には、きっちりと合法に停められた車が並んでいる。
誰もはみ出していない。
ただ、普通に停めただけだ。
彼女の額に汗が浮かんでいる。
バックミラー越しに周囲を見る。
何人かが足を止めている。
誰も何も言わない。
視線だけが、重い。
彼女はもう一度ハンドルを打ち切った。
前後に小刻みに動かす。
タイヤがわずかに鳴る。
それでも、出られない。
あの斜めの角度のせいで、まっすぐ下がれない。
私はその横を通り過ぎ、ちょうど空いたばかりの隣の車位に入れた。
一発で。
ハンドルを切り、バックし、まっすぐ。
ぴたりと収まる。
エンジンを切る。
彼女が一瞬こちらを見た。
私は何も言わなかった。
ドアを閉め、店に入った。
買い物を終えて出てきたとき、彼女の車はまだあった。
また前へ、また後ろへ。
周囲の車は動かない。
動けないのは、彼女だけだ。
強引に奪った場所は、出口じゃなかった。
因果は、静かに回ってくる。
そしてその日以来、あの駐車場で斜めに二台分を使う車は見ていない。
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