晴海フラッグの違法駐車の車が、レッカーで吊り上げられていた。
赤いアームがゆっくりと持ち上げる。
車体が少し揺れ、タイヤが地面から離れる。
周囲にいた人たちが、思わず足を止めて見ていた。
なぜこうなったのか。
きっかけは、イベント開始30分前だった。
晴海フラッグの専用区画には、来賓車両や搬入車両が入る予定だった。
しかし入口のすぐ手前に、一台の車が堂々と停まっていた。
完全に通行を塞いでいる。
搬入車が入れない。
スタッフが立ち往生している。
管理側はすぐに車のナンバーを確認し、登録されている連絡先へ電話をかけた。
数回のコールの後、やっと繋がる。
しかし返ってきた声は、最初から不機嫌だった。
「はい?」
事情を説明すると、相手はすぐに不機嫌な声になった。
「そんなことで電話してくるなよ。」
管理側は冷静に続ける。
「申し訳ありませんが、ここは専用区画でして——」
しかし男は途中で遮った。
「今、出張中なんだよ。」
そして続けた。
「動かせるわけないだろ。」
管理側は静かに説明する。
「このままですと搬入車両が——」
すると男は吐き捨てるように言った。
「知らねえよ。」
「好きにしろ。」
そしてそのまま電話は切れた。
一瞬、空気が止まる。
周囲のスタッフが顔を見合わせる。
次の瞬間、管理スタッフは迷わず無線を取った。
「レッカーお願いします。」
それだけだった。
それから15分後。
現場にレッカー車が到着する。
赤いアームがゆっくりと伸び、違法駐車の車を掴む。
その様子を、管理側はすべて記録していた。
監視カメラも、スマートフォンの動画も。
手順通りに作業は進む。
タイヤが持ち上がる。
車体がゆっくりと浮く。
その時だった。
遠くから男の声が聞こえた。
「ちょっと待って!」
一人の男が走ってくる。
息を切らしながら叫ぶ。
「それ俺の車!」
レッカー作業は、すでに半分以上終わっていた。
男はレッカー車の前に駆け寄る。
「ちょっと!下ろしてくれ!」
管理スタッフは静かに聞いた。
「お客様の車ですか?」
男は苛立った声で言う。
「そうだよ!」
「勝手にレッカーとかありえないだろ!」
管理側はタブレットを見せた。
そこには通話履歴が表示されている。
「先ほどお電話しました。」
男は一瞬黙る。
管理側は続けた。
「出張中とおっしゃっていましたが。
」
少しだけ間を置いて言った。
「出張中じゃなかったんですか?」
周囲の空気が、ぴたりと止まる。
男は何も言えない。
顔が明らかに変わった。
管理側は淡々と書類を出す。
「こちらになります。」
そこにははっきり書かれていた。
・違法駐車
・通行妨害
・レッカー移動費用
・保管料
・違約金
男は紙を見て固まった。
「……これ全部?」
管理側は静かに答える。
「規約通りです。」
男はしばらく黙っていた。
周囲では作業が終わり、車はレッカー車の荷台に完全に固定されていた。
もう戻せない。
男は観念したようにペンを取る。
そして、黙って書類にサインした。
レッカー車がゆっくりと動き出す。
違法駐車の車は、そのまま運ばれていった。
イベントの搬入車両が、やっと入口に入る。
通路はすっかり空いた。
スタッフの一人が、小さくつぶやいた。
「最初から動かしてればよかったのに。」
誰も反論しなかった。
ルールは、最初から決まっている。
それを無視した結果が、これだった。
遠くで、レッカー車の赤いランプが小さく光っていた。
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