あの出来事は、本当に一瞬だった。
長男が、階段のところにある扉を閉め忘れていた。
それに気づかないまま、次男が自分で階段を登ってしまって——
気づいたときには、もう遅かった。
4段目あたりから、そのまま転げ落ちた。
鈍い音と一緒に、次男の泣き声が響いた。
一瞬、頭が真っ白になった。
慌てて駆け寄って抱き上げると、目の下が少し切れていて、血がにじんでいた。
大きな傷ではなかったけど、すぐに周りが赤くなって、あざになり始めていた。
とにかく怖かった。
頭を打っていないか、意識は大丈夫か、何度も確認した。
次男は泣いたあと、少しずつ落ち着いてきて、いつも通り反応もあった。
それでも不安で、#8000に電話をして、翌朝病院に連れて行くことにした。
その時の私は、ただただ自分を責めていた。
目を離した自分が悪い、と。
でも——
その空気を一瞬で壊したのが、夫の一言だった。
「お前が扉を開けっぱなしにするからだろ」
長男に向かって、はっきりと言い放った。
一瞬、耳を疑った。
今、それを言うの?
しかも相手は小2の子ども。
目の前で弟が落ちるのを見て、誰よりもショックを受けているはずなのに。
私は思わず言い返しそうになった。
でもその前に、夫は何事もなかったかのように寝室へ行ってしまった。
その背中を見た瞬間、怒りが一気に込み上げてきた。
なんで?
なんで子どもに全部押しつけるの?
見ていなかったのは、私たち親でしょ?
そのあと、ふと長男の様子に気づいた。
いつもなら、こういう時すぐに泣いたり、声を出したりするのに、
ずっとソファーに座ったまま、何も言わない。
動かない。
ただ、じっとしている。
その姿が逆に怖かった。
「どうしたの?」と声をかけた、その瞬間だった。
一気に崩れた。
ボロボロと涙を流して、声を上げて泣き始めた。
「ごめんなさい……」
その一言を聞いた瞬間、胸が締めつけられた。
違う。
違うでしょ。
謝る必要なんて、どこにもない。
私はすぐに長男を抱きしめた。
「大丈夫だよ」
「長男のせいじゃないよ」
「ママがちゃんと見てなかったのが悪いの」
何度も繰り返した。
でも長男は、しばらく顔を上げなかった。
小さくなって、ずっと俯いたままだった。
あの姿を見たとき、はっきり思った。
これは絶対に違う。
間違っているのは、長男じゃない。
責任を押しつけたあの一言だ。
一番不安で、怖くて、どうしていいか分からない時に、
追い打ちをかけるような言葉を投げるなんてありえない。
あのまま何も言わなかったら、
長男はきっと「自分のせいで弟がケガをした」と思い続ける。
そんなの、絶対にダメだと思った。
正直、あの瞬間の怒りは今でも忘れられない。
でもそれ以上に強かったのは、
この子を守らなきゃいけない、という気持ちだった。
小2の子どもに、全部背負わせるなんておかしい。
少なくとも私は、
あの子に「お前のせいだ」なんて言わせたままにはしない。
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