「まず謝罪だろ」と、マクドナルドで言われた。
一瞬、何のことかわからなかった。
駐車場にほぼ同時に入った車が一台あった。
お互いに車を停め、私は先にエンジンを切り、すぐに店へ向かった。
店内は夕方で少し混んでいた。
私はそのままカウンターの待機列へ並んだ。
数十秒後、さきほどのご夫婦が入店してきた。
その直後だった。
「私達の方が先に駐車場に入ったのに、なんで前にいるんだ」
後ろから、はっきり聞こえた。
聞き間違いかと思った。
でも違った。
3回も、後ろでブツブツ言われた。
「順番が違うだろ」
「普通は譲るだろ」
「常識ないな」
私は振り向かなかった。
けれど、はっきり聞こえていた。
ついに、我慢の限界がきて、私は静かに振り返った。
「何かおっしゃいましたか?」
ご主人は眉をひそめたまま言った。
「俺たちが先に駐車場に入ったんだぞ」
私は一呼吸おいて答えた。
「駐車場に入った順番と、カウンターに並んだ順番は別ですよね?」
周囲の空気が、一瞬止まった。
後ろの高校生らしき子が、ちらりとこちらを見た。
レジの店員さんの手が、わずかに止まった。
ご主人は、少し声を荒げた。
「じゃあとはなんだ。まずは謝罪だろ」
私は首を傾げた。
「何が悪いのかわからないので、説明していただけますか?」
言い返すでもなく、怒鳴るでもなく、ただ確認しただけだ。
ご主人は言葉を詰まらせたあと、吐き捨てるように言った。
「そんな事もわからんのか」
隣の奥さんは、視線を落としたまま何も言わない。
私は、少しだけ笑ってしまいそうになった。
順番。
それはとても単純だ。
カウンターに並んだ順番。
それだけの話だ。
私はもう一度、静かに言った。
「駐車場に入った準備が先でも、並んだ順番が優先ですよね?」
周囲の視線が、じわりとこちらに集まる。
ご主人は明らかに苛立っていた。
でも、理屈は崩れている。
私は最後に、淡々と付け加えた。
「え?じゃあ、もっと機敏に早く車から降りて店に入ればよかったんじゃないですか?」
一瞬、静寂が落ちた。
ご主人は口を開きかけて、閉じた。
奥さんは、小さくため息をついた。
店員が「次のお客様どうぞ」と呼んだ。
私はそのまま前に進んだ。
誰も、私に譲れとは言わなかった。
ご夫婦は、その場で立ち尽くしていた。
私は商品を受け取り、振り返らずに店を出た。
順番は、駐車場のタイヤ位置で決まるものではない。
並んだ順番だ。
それだけの話なのに。
後にも先にも、あんな理屈は初めてでした。
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