あれを見た瞬間、正直、声が出そうになった。
ほんの少しのつもりだった。
「すぐ戻るし、大丈夫だろう」
そんな軽い気持ちで車を停めて、用事を済ませて戻ってきた私は、自分のフロントガラスに貼られた一枚の手書きの紙を見て、その場で固まった。
そこに書かれていたのは、まさかのひと言。
「次に無断駐車した人は、うちの鶏白湯ラーメン10杯買ってください。」
……は?
いや、待って。
普通こういうのって、「無断駐車禁止」とか「違反車両は通報します」とか、せいぜいそんな感じじゃない?
なのに、なぜラーメン。
しかも1杯じゃない。10杯。
桁がおかしい。圧が独特すぎる。
私はしばらくその紙を見つめたまま、状況を理解できずにいた。
怒られているはずなのに、文面が妙にユーモラスで、思わず笑いそうになる。
でも笑った瞬間に、「いやいや、笑ってる場合じゃない、これ私に向けられてるやつだ」と気づいて、今度は変な汗が出てきた。
その駐車場は、もともと静かな場所だった。
騒がしいわけでもなく、人通りが特別多いわけでもない。
だからこそ、私は油断した。
ほんの少し停めるだけ。誰にも迷惑をかけない。見つからない。大丈夫。
たぶん、無断駐車する人のほとんどが、最初はそんなふうに思うんだと思う。
でも、その一枚の貼り紙は、下手な警告文より何倍も効いた。
「監視しています」とも書いていない。
「罰金」とも書いていない。
それなのに、ものすごく効く。
なぜなら、あの貼り紙には、ただの注意ではなく、“見つけたぞ”という空気があったからだ。
しかも怒鳴るでもなく、追い詰めるでもなく、妙なユーモアでこちらの逃げ道をふさぐ。
真面目な警告なら、「すみません」で心の中をごまかせる。
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