「ちょっと待って……小計10,900円って何? 私たち、三杯しか頼んでないのに!」
伝票を見た瞬間、心臓が一気に跳ね上がった。目の前に広がる数字は、明らかに私の感覚と一致しない――これ絶対おかしい。
注文はレモンサワー一杯、ハイボール一杯、ウーロン茶一杯。それだけなのに、どうして合計が一万円超え? 思わず店員の方を見ると、なんだか言い訳めいた表情を浮かべている。
「えっと……システムの計算で……」
いやいや、それじゃ納得できない。私の頭の中では「このまま黙って支払う?」なんて選択肢は存在しない。
「店長さんを呼んでください」
声を少しだけ低く、でも断固として告げる。隣にいる夫が「まあ、500円くらい……」と小声で言うが、私は振り向きもしない。今は金額の大小じゃない。
「重要なのは、正しい金額を払うこと。そして、私の態度を見せること」
店長が来るまでの間、店員はしどろもどろ。伝票の数字を指差して「こちら……えっと……」と言うが、言葉が続かない。私は腕を組んで冷静に待つ。周囲の視線が少しずつ集まり始めるが、私の心はむしろ高鳴る――ここで引いたら、正義が負ける。
「すみません、各行をもう一度確認させていただけますか」
伝票を店長に手渡し、一行一行照合開始。店長は淡々と数字を追い、端末とレシートを突き合わせる。私の目は逃がさない。店員も気まずそうに固まる。
「……あ、これは入力ミスです」
店長が指差した瞬間、私の心臓はさらに加速した。そう、まさに私が予感した通り。システムの設定ミスで、三杯の合計金額が間違って打たれていたのだ。
「すぐに返金手続きをします」
店長の声に、周囲から安堵の息が漏れる。私も心の中で静かにガッツポーズ。
お金は戻ってくる、そして私の行動の正当性も証明された瞬間だ。
現金が手元に戻る。伝票は修正され、正しい合計金額が記されている。私はそれを受け取り、内心でにやりと笑う。
「金額が少なくても、態度こそが大事だ」
夫も無言でうなずくしかなかった。たった三杯の飲み物で、ここまで神経を使う必要があったのかと思うが、この経験は、単なるお金の問題ではない。
正しいことを正しく貫く――その爽快感が胸に残った。
レジを離れるとき、店員の視線が私に向く。微妙な申し訳なさと、少しの尊敬が混ざった複雑な表情。私は笑顔を見せず、でも心の中で確かに勝利を噛みしめていた。
帰り道、私は思う。日常の小さな理不尽に対しても、声を上げる勇気を持つこと。それは、どんな大きな困難に対しても通じる。たとえ相手が小さな店員でも、無言で従う必要はないのだ。
今日の戦いは、三杯の飲み物と数千円の話。しかしその先に見えた爽快感――正義を貫くという小さな勝利――は、何物にも代えがたい。
「少額でも態度で勝つ――これぞ真の勝利」
そう心に刻み、私は店を後にした。